116:猫宮[saga]
2012/12/12(水) 19:01:30.94 ID:re/6Yyqf0
「私ね、梓ちゃんが考えてくれてる私より、ずっと我儘な子なんだ。
確かに『お試しお願い』はお姉ちゃんが元気で幸せになれるようにお願いしたよ?
『お試しお願い』の効力はすぐに出たみたいで、
傍から見てもお姉ちゃんはすっごく幸せになれたみたいだったんだ。
例えばお姉ちゃんが割った卵の中に黄身が二つ入ってたり、
失くしたと思ってたCDが二年振りくらいに見つかったり、
朝に弱いはずのお姉ちゃんが早起き出来るようになったり……。
一つ一つはちょっとした事なんだけど、お姉ちゃん、幸せそうだったなあ……。
最初はね、そんな幸せそうなお姉ちゃんの笑顔を見てるのが嬉しかったんだ。
でもね……」
「でも……?」
「お姉ちゃんの幸せそうな顔を見てる内に、私、怖くなっちゃったの。
お姉ちゃんは私に幸せそうな笑顔を見せてくれてる。
お姉ちゃんはいっぱいの幸せを感じてくれてる。
すっごく嬉しいし幸せな事なんだけど、私にはそれが怖くなっちゃったんだ。
だって、今のお姉ちゃんは私の『お試しお願い』が幸せにしてるだけで、
私自身がお姉ちゃんを幸せにしてるわけじゃないんだ、って事に気付いちゃったから」
「だけど、それは憂ちゃんが優しいから……」
私が反論しようとすると、憂ちゃんが私の唇に右手の人差し指を当てた。
それ以上は言わないで、って事なんだろう。
だけど、私はその憂ちゃんの言葉に反論したかった。
唯さんを幸せにしたのは、確かに憂ちゃんの『お試しお願い』の効力かもしれない。
憂ちゃん自身が唯さんの幸せのために、何かをしているわけじゃないのかもしれない。
それでも、唯さんのために、誰かのために、
自分の『お試しお願い』を使える事自体が、憂ちゃんの優しさなんだと私は思う。
私は『お試しお願い』も『一生に一度のお願い』も、自分のために使う事しか考えてなかった。
誰かのために使おうだなんて、全く思いも寄らなかったんだもん。
誰かのために自分のチャンスを使える事、それこそが憂ちゃんの優しさの証明なんだ。
「私は優しくなんてないんだよ、梓ちゃん」
優しい微笑みを浮かべて、憂ちゃんが自分の優しさを否定する言葉をまた口にする。
それを認めたくなくて私が首を横に振ろうとすると、急に全身に温かさを感じた。
柔らかさと温かさが私を包む。
憂ちゃんに抱き締められたんだって気付いたのは、五秒くらい経ってからだった。
「憂……ちゃん……?」
突然の事にちょっと驚きながら、私は憂ちゃんに訊ねてみる。
私を抱き締めた理由は答えずに、憂ちゃんは私の耳元で囁くように話を続けた。
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