125:猫宮[saga]
2012/12/15(土) 19:05:15.54 ID:UkOXPRkn0
「ねえ、梓ちゃん……?」
「何、憂ちゃん?」
「才能って……、欲しいよね。
私にも分かるよ、梓ちゃん。
私もね、お姉ちゃんを見てていつも羨ましくなるんだ。
お姉ちゃんはいつも私を喜ばせてくれるの。
私には思いも付かなかった素敵な方法で、周りの人達を幸せにしてくれるの。
そんな……、すっごいお姉ちゃんなんだよ。
皆を笑顔にしてあげられる才能を持った素敵なお姉ちゃんなの。
だからね、私もお姉ちゃんがすっごく羨ましいんだ。
私もお姉ちゃんみたいに周りの人達を笑顔にしてあげたい。
私もお姉ちゃんが私にしてくれたみたいに、お姉ちゃんを笑顔にしてあげたいもん。
才能を持ってる人は羨ましくなっちゃうよね……」
それはとても意外な言葉だった。
口振りからしても、私の事を慰めてるわけじゃなくて、本気でそう考えてるみたい。
私からは才能に満ち溢れてるように見える憂ちゃんでも、そう考える事があるんだ……。
ううん、ひょっとしたら私の考え方がおかしかっただけなのかもしれない。
憂ちゃんには音楽の才能がある。色んな才能がある。
人よりちょっと上手にギターを弾けるレベルの私よりも、ずっとずっと才能がある。
それは間違いないと思う。
でも……。
私はまとまりかけたその想いを言葉にしようと口を開く。
だけど、私が言葉を口に出すより早く、憂ちゃんが言葉を続けていた。
偶然なのか、必然なのか、その言葉は私が考えていた事とよく似た言葉だった。
「音楽の才能が欲しい梓ちゃんの気持ち、私にもよく分かるよ。
すっごくよく分かるよ……。
だけど、私、梓ちゃんに一つだけ聞かせてほしいんだ。
物凄い音楽の才能があれば、梓ちゃんのお友達も音楽を続けてくれるかもしれないよね?
将来、音楽が関係する職業に就けて、ずっとずっと音楽を続けられるかもしれないよね?
そうなったら梓ちゃんも嬉しいよね?
でもね、私、思うの。
それって本当に梓ちゃんが叶えたい夢だったのかなって。
梓ちゃんが本当に欲しかったものだったのかなって……」
その言葉は憂ちゃんが憂ちゃん自身に浴びせ掛けてるみたいにも聞こえた。
ううん、きっと憂ちゃんは実際にも自分自身に問い掛けてるんだと思う。
求めた才能を手に入れて、それで本当に幸せなのかって。
求めていたものは本当にそれだったのかって。
私が、憂ちゃんが、二人が叶えたい夢は本当にそれなのかって。
私が黙り込んでいたせいか、憂ちゃんの腕から少しだけ力が抜けた。
不安そうな声色混じりに憂ちゃんが続ける。
「ごめんね、梓ちゃん……。
知り合ってまだそんなに経ってない私が偉そうに言っちゃった……。
でも、これが私の考えなんだって事だけは、梓ちゃんに知ってほしかったんだ。
私の気持ち、知っておいてほしかったんだ。
本当はもっと落ち着いた時に話すべきだったよね?
梓ちゃん、今日、とっても悲しい事があったのに……。
でもね、私達に残された時間はもう……」
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