過去ログ - 梓「サナララ」
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53:猫宮[saga]
2012/09/14(金) 18:03:36.89 ID:m+KlO7h40
外見と雰囲気に違わずと言うか、平沢さんの家事の腕前はかなりのものだった。
空腹なはずなのにあっという間に朝食と昼食のお弁当を調理し終わると、
少しだけ申し訳無さそうな顔をして、ようやくごはんに箸を付けてくれた。
ごはんを食べながら平沢さんが言うには、
平沢さんのご両親は家を留守にしがちで、お姉さんのごはんの用意をよくしているんだって。
普通は逆でしょ、と思ったけれど、私はそれを口にしなかった。
お姉さんの事を話す時の平沢さんの顔が本当に幸せそうだったからだ。
やっぱりお姉さんの事が大好きで大好きで仕方が無いんだろう。
それが平沢さんの優しさや思いやりに繋がってるのかな?
私にも大切な誰かが出来れば、平沢さんみたいに誰かに優しく出来るのかな?
それはまだ、分からない。

私が前に作った物より数倍は美味しいごはんを食べてから、私達は私服で桜高に向かった。
平沢さんには私の服を貸してあげた。
服の寸法は身長はともかく、胸の方をきつく感じてたみたいだけど、
平沢さんは何も言わないでくれたし、私もそれについては触れない事にした。
まだ……、まだ中三なんだから、私は。
その内、驚くくらいに背も伸びて、胸も膨らんで来るはずなんだから……。
膨らんで来る……よね……?

平日の昼間に私服で歩いているにも関わらず、誰にも見咎められる事は無かった。
それどころか誰も私達の方に視線すら向けない。
分かってはいた事だけれど、やっぱりそれは怖かった。
私達だけが世界の片隅に残されたみたいだったし、
誰にも気付かれないって事は、誰にも助けてもらえないって事でもあるんだから。
私達は出来るだけ車の通りの少ない道を選んで、
注意深く歩きながら色んな話をしていると、いつの間にか桜高に辿り着いていた。

桜が丘女子高等学校。
オープンキャンパスで二回ほど来た事があるけど、自由に行動するのは初めてだった。
平沢さんも少しだけ緊張しているらしく、息を何度も呑んでいるみたいだった。
もっとも、それは桜高の雰囲気に緊張しているわけじゃなくて、
何処かでお姉さんと顔を合わさないか、って緊張の方が大きいみたいだったけど。
軽音楽部の部室の場所はすぐに分かった。
平沢さんが場所を完璧に憶えていたからだ。
お姉さんの忘れ物を届けに、何度か部室に顔を出した事があるんだとか。
本当にどっちがお姉さんなんだろう……。

時計を見ると二時ちょっと過ぎだったから、私達はまずお弁当を食べる事にした。
校長先生(?)の銅像の前に陣取って、二人でお弁当箱を広げる。
お弁当自体は朝ごはんと同じく美味しかったんだけど、一つだけ気になった事がある。
一年生のタイを着けて横の髪を巻き毛にした女子生徒が、休憩時間中に私達の方に視線を向けた事だ。
『石ころ帽子』の状態の私達を見る事は出来ないはずだから、気のせいだと思うんだけど……。
それとも、いい加減な神様だから、たまには誰かに見られる事もあるのかなあ……?
でも、例えその巻き毛の人に私達の姿が見えた所で、何かが変わるわけでもないか。
私はその人の事を出来るだけ気にしないようにしてお弁当を食べ終え、
平沢さんと体育館や講堂なんかを見学していると、気が付けば放課後になっていた。
そんなこんなで軽音楽部の部室に入って、部員の三人の様子を見てるわけなんだけど……。


「もう一時間になるよね……」


溜息がちにまた私が呟く。
そう。私達が部室に入って一時間にもなるのに、律さん達は全然練習を始めようとしなかった。
それどころか紬さんっていうお嬢様っぽい人に紅茶を淹れてもらって、
「今日のおやつはモンブランですよー」と紬さんの持参の物らしいおやつを食べている。
一時間も音楽の話すらせずに、のんびりと今日あった出来事なんかを話しているんだよね……。


「ここ、本当に軽音楽部だよね……?」


何だかかなり自信が無くなって来たから、
遂に私は何度も言おうとしながら言えずにいた事を平沢さんに訊ねてみる。
これじゃ軽音楽部じゃなくてお茶会部じゃない……。
私の気持ちを察してはいてくれたらしく、平沢さんは私の肩に軽く手を置いてくれた。


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