過去ログ - 梓「サナララ」
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93:猫宮[saga]
2012/11/07(水) 18:38:11.86 ID:3jygDDz00
『一生に一度あるかどうかの出会いを、
一週間で三度も体験出来ただけで儲け物だと思わない?』


出会いを生かせなかった自分に後悔もあるはずなのに、
そう言ったキャサリンさんの姿はとても素敵だったらしい。
確かに、素敵だな、と私も思う。
確固とした自分の意志を持った素敵な人だ。
そんなキャサリンさんの人柄を分かっているからこそ、
軽音楽部の皆さんもキャサリンさんの指導を安心して素直に受けられるのかもしれない。


「チャンスを生かせられるかどうかは自分次第……、って事だよね……」


私は自分に言い聞かせるみたいに言う。
ううん、実際に自分に言い聞かせる。
つまり、キャサリンさんの言いたかった事はそれなんだと思う。
チャンスはいつ訪れるか分からない。
いつかは訪れるかもしれないけれど、一生訪れる事が無い可能性だってある。
チャンスの有無自体は自分自身の力ではどうしようもない。
無理矢理に掴む事が出来る人も居るのかもしれないけれど、そんな人は極一部なんだ。
だからこそ、キャサリンさんはチャンスを望んだんだよね。
まずは『素敵な出会い』ってチャンスを貰って、後は自分の力でどうにかしたかったんだ。
その結果がどうなったって自分の責任。
生かせなくて失敗してしまったとしても、キャサリンさんにはそれでよかったんだろうな。


「今がチャンス……だよね」


震え始めた自分の身体を押し留めながら、私はもう一度一人で呟いてみる。
チャンスと言えば、今の私にも一つのチャンスがあった。
キャサリンさんと違って望んで手に入れたチャンスじゃないけど、私には生かすべきチャンスがある。
今の私は『石ころ帽子』を被った状態になってしまっている。
神様だか誰なんだかの手違いで、誰からも姿を認識されない状態になってるんだ。
誰にも気付かれずに行動出来るんだよね。
勿論、あの子にも。

本当はこんな事しちゃいけない。
こんな事したって、あの子も私も幸せになんかなれない。
二人とも傷付くだけだって分かってる。
こんなの最低だって分かってる。
でも、分かってるけど、止められない。
確かめたいから。
私と一緒に夢を見てくれていたあの子の最後の真意を確かめたいから。
ずっとずっと目を逸らしてたあの子の気持ちを知りたいから。
私は偶然訪れたこのチャンスを生かそうと思う。

こんな最低の事をしてしまう私は神様に見放されてしまうかもしれない。
『一生に一度のお願い』を叶える資格の無い人間だと判断されてしまうかもしれない。
別にそれでもよかった。
今の私にとって一番大切なのは、あの子の気持ちを確かめる事なんだから。
確かめなきゃ、私はもう前に進めないから。
だから……。

私は部室に配置されている長椅子から立ち上がって、歩き始める。
あの子の家へ。
あの子の下へ。
見ようとしなかった、見るのが怖かった私達の夢の結末を確かめるために。
私は、駆け出して行く。

ひょっとしたら。
最初からこうするつもりで、私は今日一人で桜高まで来たのかもしれなかった。
こんな最低な私の姿を、憂ちゃんにだけは見られたくない。


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