5:バッコス ◆rEnZuhXifY
2012/07/06(金) 01:14:15.88 ID:/VCekl+io
駅に向かう人の流れに沿って歩く。
通勤は比較的好きだ。
何も考えなくても勝手に身体が動いてくれる。
ルーティンを繰り返すだけなら嫌なことは思い出さずに済む。
しかし、街に溢れかえってる不快なモノを完璧に遮断することはできない。
それは暴力的な手法で俺の耳や目に無理矢理突っ込んでくる。
視界に入ったビルの壁面についたディスプレイには竜宮小町が映っていた。
3人は笑いながら、高いところから俺を見下ろしている。
どうやら新曲のPVのようだ。
プロデューサーをやめてからはそんな情報は一切入って来なくなった。
以前は欠かさずチェックしていた歌番組は見なくなったし、
最近は竜宮小町をテレビで見かける機会も増えてきたからテレビ本体を捨てた。
もちろんNHKとの契約も解約した。
この前、竜宮が新聞に大きく広告を出してるのを見つけたから新聞も取るのをやめた。
竜宮の名前を聞いただけで憎しみと劣等感と悔しさで頭がどうにかなりそうだった。
俺は勝てなかった。
竜宮小町に。
そして、律子に。
だからプロデューサーを辞めた。
俺が駄目なだけならまだ許せる。
しかし、俺に才能が無いせいでアイドルにまで迷惑をかけるのは耐えられなかった。
「もうすぐ発売日だよね〜!」
「私はちゃんと予約したから大丈夫だよ」
「え?マジで?私も予約しとこっかな」
「じゃあ、今から行こっか!」
「うん!今回の特典ってさあ……」
女子高生らしき2人連れがそんなことを話していた。
小綺麗な少女達だった。
短いスカートから伸びる足が眩しい。
俺への当てつけかと思って苛立った。
大声で叫びながら飛びかかって殴りたい衝動に駆られる。
だから、嫌なんだ。
と心の中で呟く。
街に出ると誰かが、俺が目を背けたいモノを嬉しそうに見せてくれる。
それなのに見たいものはどんなに努力しても見せてはくれない。
世界は残酷だ。
俺は再び竜宮小町を眺めた。
相変わらず俺を見下ろして笑っていた。
もう半年経った。
だがまだ半年だ。
もはや戦うことすらできないが、未だ炎は消えない。
ビルの向こうに登りたての月が見えた。
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