過去ログ - P「無題」
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9:バッコス ◆rEnZuhXifY
2012/07/07(土) 18:30:34.71 ID:kzeDDsvEo
律子がいた。
電車の中に。

咄嗟に逃げ道を探すがもう遅い。
俺の前に並んでいた人達はすでに電車に乗り始めていた。

律子は俺を見ていた。
俺も律子を見ていた。
2人の目は合ってしまった。

足が震えていた。
それに呼応するかのように手も震え、鞄の金具がぶつかりあって音を立てた。
だが、今更律子に背を向けて逃げる気にはならなかった。
これ以上醜態を晒したら、もう耐えられない気がした。

俺は諦めて電車に乗った。

「久しぶり」
つり革に捕まりながら夕刊を読んでいる白髪の男が声に反応して俺を見た。
しかし、すぐに興味を失ったのか再び新聞に目を落とす。

「律子に会うのも半年ぶりだな」

俺は努めて明るく言った。
顔には笑みなども浮かべながら。
大人になったと思う。
学生時代の俺はここまでうまく本音を隠すことはできなかっただろう。
余りにも感慨深くて、胸の中では虹色のヘドロが渦を巻いていた。

「プロデューサー……元気でしたか?」
「ああ、もちろん」

元気なはずはなかった。
むしろ仕事をやめてから体調は悪化した気がする。
この半年で5kg減った。
眠れない日も多い。
心療内科にも依然通い続けてる。

治す方法は分かっていた。
しかし、再びそこに飛び込んで行く勇気はそう簡単には湧いてこない。

何しろ俺はもう若くはないのだ。
そう自嘲的に心の中で呟いた。

「律子は元気だったか?」

俺は律子に質問される前に尋ねた。

「ええ……以前より仕事は増えましたけど」

そう言って律子は黙った。
黙ったまま上目遣いで俺を見ている。
怒っているようには見えない。
おそらく距離感を掴みかねているのだろう。
だが俺はこんなジャブでは動じない。




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