166:μ[saga]
2012/09/20(木) 18:23:50.71 ID:xX5qScGu0
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【ひきこもりの極限】
やっとの事で読書感想文を書き上げた私は、
唯達と三人で何となくお昼のサスペンスを鑑賞していた。
ちなみに読書感想文で『戦争と平和』について書くのは諦めた。
やっぱり物語が壮大過ぎて、感想を纏められそうにないのよね。
代わりに前に読んだ『罪と罰』について書いたのだけれど、
我ながらそれなりに出来のいい読書感想文が書けたと思う。
それにしても、サスペンスで真相を告白する時の場面のあの崖は何処なのかしら?
と特に感慨も無くサスペンスのクライマックスを鑑賞していると、
不意にテーブルの上に置いていた澪の携帯電話が振動を始めた。
三人で一斉に液晶画面に視線を向ける。
携帯電話の液晶画面には『律』と表示されていた。
「律っ!」
私が止める隙も無く、澪が携帯電話の着信ボタンを押していた。
そんなに律の動向が気になっていたのね、澪……。
通話料金で私達の居場所が分かってしまうんじゃないか、
と一瞬不安になったけれど、律なら大雑把だから気にしないかもしれない。
何ならもう日本に戻って来てて、東京観光して帰る予定って事にしてもいいし。
ただ、二人の話の内容自体は知っておきたいわね……。
私はハンズフリーボタンを押してから、そのまま澪の携帯電話をテーブルの上に置かせた。
「お、出るの早いな、澪ー。
そんなに私の声が聞きたくて寂しがってたのかー?」
律のお気楽な声が電波に乗って聞こえて来る。
その声を聞くだけで私達の事情を何も分かっていない事が分かる。
まずは一安心といった所かしら。
でも、油断は出来ない。
普段はいい加減で大雑把に見えるのに、律はたまに鋭い事がある。
ちょっとした事で私達の嘘に気付く可能性もあるから、気を引き締めないといけないわね。
「べ、べべ、別に律の声が聞きたかったわけじゃないぞ!
結局、合宿はどうなったんだろう、ちゃんと練習したのかな、
って、合宿に参加出来なかった身としては、気になっただけなんだからな!
それだけなんだからな!」
顔中を真っ赤にした澪が律の言葉に反論する。
典型的な素直になれない子ね……。
あれだけ律の事で一喜一憂していたんだから、少しは素直になればいいのに。
もっとも、二週間嘘を貫き通し続けている私に言えた事ではないけれど。
「ははっ、わーってるわよ、澪ちゅわん。
もう、澪ちゅわんったら冗談が通じないんだからぁー」
澪の言葉を悪く思った様子も無く、律の笑い混じりの声が響いた。
こんな態度の澪にはもう慣れているという事なのだろう。
流石は熟年の幼馴染みと言った所かしら。
対した澪の方は、電話で話しているという安心感があるからか、
心の底から残念そうな表情で肩を落として、大きな溜息を吐いていた。
素直になれなかった自分を後悔しているのだろう。
その表情を律に見せれば、律の態度も多少は変わるはずだけど、
それを澪自身に教えるのは、大きなお世話なのかもしれないわね。
私は軽く苦笑してから、澪達の会話を静かに見守る事にした。
次に会話を切り出したのは律だった。
特に何でも無い事のように、軽い感じで切り出していた。
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