172:μ[saga]
2012/09/20(木) 18:26:54.68 ID:xX5qScGu0
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【ひきこもりの終焉】
「和ちゃーん……、くすぐったいよう……!」
「我慢なさい、唯。
私だって身体中がこそばゆくて気持ち悪いくらいよ。
でも、今日を乗り越えれば少しは慣れていくはずよ。
だから、頑張って、お願い……!」
「う……、うん……」
私の家の玄関の前、私が懇願すると、唯は戸惑った表情で頷いてくれた。
今日一日……、今日一日を乗り切れば私の目的は達成されるのだ。
もう形振り構ってはいられないし、
衣服のこのくすぐったさにも耐えないといけない……。
今日はお父さんとお母さんがハワイから帰国してくる日だ。
正確には夕方過ぎに帰って来るらしいけれど、そんな時間まで待てなかった。
「そんな方法で本当に大丈夫なのか、和……?」
くすぐったそうにしながらも、澪が心配そうな表情で私に訊ねる。
澪の言い分も当然だけれど、私には他に方法が思い付かなかったのだ。
日焼けしていない私達の姿を誤魔化す方法……、
当然だけどそんな方法は一晩考えても思い付かなかった。
思い付かなかった代わりに、別の発想に辿り着いた。
日焼けしていないのが問題なのであれば、
本当に日焼けしてしまえば、何の問題も無いという答えに辿り着いたのだ。
勿論、一朝一夕で簡単に日焼けなんか出来るはずもない。
でも、この時代には、自在に日焼け出来る文明の利器が存在している。
そう、日焼けサロンだ。
この町にそんなお店が存在しているなんて知らなかったけれど、
意外に需要があるらしく、駅前に一店ある事が澪に携帯電話で調べてもらって分かった。
ならば、私達は一刻も早く日焼けサロンでこんがり焼けるだけだ。
お金なら問題無い。
二週間の生活費としてお父さん達が残してくれたお金が、まだ二万円ほど残っている。
「和ちゃんがケチで助かったよねー」とは唯の弁だけど、事実なので反論の仕様も無い。
それに私は自分の守銭奴さに感謝している。
最後の最後、問題を解決出来る余力が残っていたという事だものね。
「じゃあ、行くわよ、二人とも。
言っておくけど、知り合いに会っても気付かない振りをしていて。
最終目標はあくまで日焼けサロンで肌を日焼けさせる事よ。
それまではまだこのひきこもり生活が続いてると認識しておいて。
いいわね?」
「ほいさ!」
「わ、分かった!」
二人が頷いたのを見届けると、
私は玄関の扉を開いて二週間振りに服を着て外界に飛び出す。
その私の後に唯と澪が続いて来る。
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