5:μ[saga]
2012/07/19(木) 19:33:42.58 ID:Jwj4hYrL0
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【ひきこもりはじめ】
両親は早朝から出発していたらしい。
朝、目を覚ますと、机の上に二万円と手紙だけが置かれていた。
『のどかへ。
おかーさんたちはこれからハワイに行ってきます。
のどかなら心配ないと思いますが身体に気を付』
手紙をそこまで読んでから、すぐに視線を手紙から逸らす。
お母さん達には悪いけれど、今は手紙なんかを読んでいる時間は無いのだ。
周囲を窺ってみると、お母さん達はご丁寧に窓のカーテンを開けてくれていた。
朝陽に照らされて気持ちよく起床してほしいという親心なのかもしれない。
でも、残念ながら、今はそれは大きなお世話だった。
私は溜息を吐きながら家中のカーテンを閉めて、あらゆる場所の電気を消しに回った。
冷蔵庫くらいなら問題無いだろうけれど、
必要以上に電気を使ってしまっていたら、
お節介な近所の誰かに気付かれてしまうかもしれないものね。
最後に全ての窓と玄関の扉に鍵を掛け終わると、私は自室に戻ってから扇風機の前に陣取った。
こうしてしまうと、もう他にする事は無い。
幸いにと言うべきか、夏休みの宿題と読み終わってない本なら沢山残っている。
後は誰の目にも触れないように数日間を過ごせばいいだけだ。
……だけだったのに、
不意に耳に届いた声が私の計画の全てを壊す事になった。
よりにもよって初日から。
二冊ほど小説を読み終わった頃、聞こえてきたのだ。
聞き飽きるほど聞き慣れた幼馴染みの声が。
勿論、唯の声だった。
あの子の声は独特な上に甲高いから、昔から窓を閉め切っていてもよく私の耳に届いた。
どうして、唯が私の家の近くにまで来ているのかは分からない。
今、私がハワイに行っている事(になっている事)は知っているはずだから、
単に何となく、私の家の付近まで散歩に来ただけなのかもしれない。
「それって全然自然じゃないよねー♪」
どうやら放課後ティータイムの曲を口遊んでいるらしい。
唯には珍しく、夏の日だって言うのにとてもご機嫌な様子だ。
でも、唯のその能天気な声を聞いていると、自業自得とは言え、
こんな蒸し暑い日に室内でひきこもっている自分が嫌になって来る。
どうでもいいから、
早く帰ってくれないかしら……?
そう思いながら、
カーテンの隙間から外の様子を窺ってみたのが失敗だった。
思わず息を呑んだ。
唯が丁度窓の方に視線を向けていて、目が合ってしまったからだ。
唯の事だから、深い意味も無く窓に視線を向けていただけだと思う。
けれど、そんな事は関係無かった。
突然の事態に私は動揺して、唯も恐らく同じくらい動揺して、
数秒くらいそのまま見つめ合った後で、私は立ち上がって窓を開いた。
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