7:μ[saga]
2012/07/19(木) 19:34:21.43 ID:Jwj4hYrL0
「あれ……?
和ちゃん、何で? ハワイに行ってるはずじゃ……」
唯が首を捻りながら呟いていたけれど、
気が付けば私はそれを無視して唯の右手首を掴んでいた。
何をどうしたらいいのかは私の中でも答えは出ていなかった。
ただ、唯をこのまま帰すわけにはいかないという事だけは、私にもよく分かっていた。
「ちょっ……、えっ……?」
戸惑いの声を上げる唯の手首を引っ張って、
靴を履かせたままで窓越しに部屋の中に入らせる。
誰にも目撃されてないのを確認すると、
すぐに窓とカーテンを閉めてから唯の口を塞いでその場に座らせた。
「事情があるのよ。
大きな声を出さずに黙って聞いてくれるかしら?
……いいわね?」
そう言うと、私に口元を手のひらで押さえられながら、唯が小刻みに頷いた。
我ながら何だか無茶な事をしてしまった気がするわね……。
傍から見ていたら、間違いなく私の方が変質者だわ……。
でも、一先ずは一安心と言った所だった。
少し迷ったけれど、私は唯から手を離して事態をありのままに説明する事にした。
こうなってしまった以上、唯にも協力してもらうしかない。
私の将来のために、無理矢理にでも……。
かなり口が軽い唯の事だし、
隠し事をさせるのは無理だという事は経験でよく分かってるもの。
「素直に皆に話したらいいんじゃないの?」
私が事態を説明し終わった時、
唯は何でも無い事のように呑気に呟いていた。
予想通りとは言え、実際にやられてしまうと苛立たしいわね……。
私は少しだけ目を細めて唯を睨んでみたけれど、
それでも唯はそれを気にしない様子で軽く首を傾げてまた続けた。
「だって、そうでしょ?
別に和ちゃんが悪いわけじゃないんだし、単なる勘違いだったわけだし、
素直に事情を話せば、皆、「なーんだ」って笑ってくれると思うよ?
こんな暑苦しい部屋で汗を流してる必要なんて無いんだってばー」
呑気ね、と思った。
唯の呑気さは美点ではあるけれど、この状況では欠点でしかない。
生徒会に揉まれて世間の酸いも甘いも経験して来た私には分かる。
世間の荒波の中では、呑気な唯など狼の群れの中に迷い込んだ兎の如き物なのだ。
私は人差し指を立てて、まだ呑気で居る唯の瞳を覗き込んで口を開いた。
唯にはこれから私の共犯になってもらわなければならないのだ。
「甘いのよ、唯。物凄く甘いわ。
どれくらい甘いかと言えば、
チョコレートに練乳垂らして蜂蜜掛けて砂糖を練り込んだくらいに甘いのよ」
「私、それたまに憂に作ってもらうよー。
じゅるり……」
「あんたって本当に……。
まあ、いいわ。
とにかく、あんたはそれくらい甘過ぎるくらいの甘ちゃんなのよ、唯。
よく考えてごらんなさい。
私がハワイに行けなかった事を知った軽音部の部員がどう反応するかを」
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