過去ログ - テッラ「困りましたねー」フィアンマ「言う程困ってもいないだろう」
↓
1-
覧
板
20
22
:
むかしのはなし
◆2/3UkhVg4u1D
[saga]
2012/07/24(火) 01:00:30.19 ID:+WWkJClF0
ぼんやりと、昔の事を思い出す。
貴族とは程遠い、中の下、しかし一応は中流家庭に、私は産まれた。
毎日がそれなりに幸せだったのは、恐らく私が一人息子であり、両親が善性に満ち溢れていたからだろう。
長閑な日々が、いつまでも続いていけば良いと願うでもなく、むしろ続くであろうと思い込んで生きていた。
しかし、とある日に悲劇は起きた。
街の中でちょっとした暴動が起き、両親はそれに巻き込まれ、二人共死亡した。
ちょっとした暴動といっても、私が両親を喪った事自体には何ら変化無く。
その夜の内に、家賃を払えないだろうと言われ、大家にそう追い立てられるまま、私は外へ出た。
一夜にして家族も何もかも失った幼い私は、スリをして生計を立てることにした。
殴られる事もあった。怒鳴られるだけではすまなかった。罪を犯しているのだから当たり前だが。
勿論、成功すれば一斤のパンを、満腹になるまで好きに食べ散らかす事も出来た。
罪を犯す事に対して、特段恐怖は無かった。生きていくためには仕方のないことだと思い込み言い聞かせ。
しかし、成功すればする程、周囲は警戒する訳で。
やがて私は躍起になって犯罪を犯すようになった。主に盗みを。
そんな折、一人の青年の財布をスった。
青年は片手にパンの入った紙袋を持っており、細腕には手一杯のように思えた。
足の速さと身軽さに自信のあった小柄な私は、財布を持ったまま、そのまま逃走しようとしたのだが。
『すまないが、それは俺様の物じゃないんだ。返してもらうぞ』
私に財布をスられ呆気にとられていた筈の髪の長い青年は、一瞬で私の背後に回り、襟首を掴みあげた。
ひょい、と持ち上げられ、必死で財布を死守しようとする私の様子をひとしきり眺め、彼は楽しそうに笑った。
取って食われる、という発想にびくつく私の手から財布をもぎとり、彼は軽くしゃがみ、怯える私と視線を合わせ。
何か、愉快な動きをする玩具でも見るような瞳で、告白に微笑んでみせた。
『……殴るのか』
『ん?』
『…財布、盗ったから』
丁寧な話し方など分からず、スラングに近い崩れきったイタリア語で話す私とは対極に、彼は上品な口調で言葉を話し、緩く首を横に振る。
表情が一片した。万華鏡を覗き込んでいるかのように滑らかな落胆。
とても退屈そうな表情だった。人生全てに飽き飽きしていると言わんばかりの。
背中を少し過ぎ、ほとんど腰に届く位の長く綺麗な赤い髪を緩く一つに後ろで結んでいる彼は、前髪を揺らし、首を傾げて。
『その程度では殴らんよ。懺悔すれば赦される程度の悪行だしな。見たところ、家も無いのだろう?』
『………だから何だよ。っつか、懺悔なんかしねぇし。神様なんか信じたって、何も良い事ねえじゃねぇか』
『はは、そうだな。俺様もそう思うよ。…おいで』
時々教会で見かける優しい神父様のようだ、と思った。赤い服を纏っているのに。
言われるがまま、不思議と吸い寄せられるように手を引かれ、私達はとある教会に入った。
何か偉い立場にあったらしい彼は、神父を見下ろして退屈そうに話しかけ。
いたく動揺する神父を半ば脅すようにして、私の世話を見るよう、彼は掛け合ってくれた。
<<前のレス[*]
|
次のレス[#]>>
88Res/94.83 KB
↑[8]
前[4]
次[6]
板[3]
1-[1]
l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。
過去ログ - テッラ「困りましたねー」フィアンマ「言う程困ってもいないだろう」 -SS速報VIP http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1342880120/
VIPサービス増築中!
携帯うpろだ
|
隙間うpろだ
Powered By
VIPservice