過去ログ - テッラ「困りましたねー」フィアンマ「言う程困ってもいないだろう」
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5: ◆2/3UkhVg4u1D[saga]
2012/07/21(土) 23:22:53.18 ID:5vaPZAUb0

テッラ「困りましたねー」

ざぁざぁと降る雨の中、緑の髪をした男がぼやく。
外に出てきたのはいいものの、傘は手元に無く。
傍らの、赤く長い髪を背中で一つに緩く結わえた青年は、退屈そうに空を見上げた。
二人揃って、大雨に辟易としながら、とある軒下で雨宿りをしつつぼやいているという訳である。

フィアンマ「言う程困ってもいないだろう」

テッラ「いや、濡れても確かにそうそう風邪は引きませんが…」

フィアンマ「まぁ、別に構わんがね。俺様はこのままでも」

そう素っ気なく返し、青年は欠伸を噛み殺す。
仕事は特に無い状況である以上、無理やりに帰る必要も無いのだ。
緑髪の男はしばらく悩んだ後、何事かを言った。
そして青年の方を見やると、優しく微笑みかける。

フィアンマ「そんな事に『光の処刑』を使うなよ。くだらん」

テッラ「貴方が濡れて風邪を引くよりはマシですねー」

フィアンマ「…未だに『あの日』の事を前提として、俺様の事を判断しているのか? 何年前の事だと思っているんだ」

テッラ「何年経過しても、貴方は私にとって大切な人です」

フィアンマ「…そうか」

ふ、と口元を弛ませ、青年―――フィアンマは外へと踏み出した。
大雨の中にも関わらず、身体が濡れる事は無い。
男性―――テッラが『人体』を上位に、『自然現象』を下位に、一時的に設定したからだ。
二人は友人ではない。そんな軽い間柄ではない。
テッラにとって、フィアンマは命の恩人であり。
フィアンマにとって、テッラはかつて救った子供。
互いにとって、互いは同僚でしかない。今は。
優秀な魔術師として、天使に近い身体を持つ二人は、そのメルヘンな響きとは裏腹に、纏う雰囲気以外はいたって普通の人間だ。
怪我をすれば血も出るし、日常生活の中で食事だって普通に摂取する。

二人は、聖ピエトロ大聖堂に帰ってきた。
フィアンマはいつものように『奥』へ戻ろうとしたのだが、テッラが引き止める。
右方のフィアンマに対して、このように気軽に話しかけられるのはテッラ位なものだ。

テッラ「少し、話をしませんか」

そんな穏やかな提案に対し、フィアンマは少しばかり悩む素振りを見せた後、穏やかな表情で頷いた。


場末のぼったくり店でも滅多にお目にかかれない不味いワインを不味そうに飲み。
卵やバターのほとんど使われていなさそうな、ぱさついたパンを美味しくなさそうに食べながら、テッラはため息を吐き出す。
必要に駆られ致し方なく執り行っている『儀式』的意味合いを持つ食事で、もう慣れはしたものの、嫌なものは嫌だ。

フィアンマ「そのように不味そうに食するのなら、もう少しばかりマシな食物を選んだらどうだ」

テッラ「いえ、あくまで儀式ですからねー。安く済ませたいのですよ。不味いですが」

フィアンマ「ご苦労な事だ」

食事机、テッラの向かいに座るフィアンマは、テッラの前に並べられた儀礼的な不味い食事とは打って変わり、質素に見えて豪華な食事を摂っている。
今口にしている生ハムのサラダは、値段に換算すると結構高価だ。
一口恵んでやろうか、とちらつかせるフィアンマに対して、テッラは笑って首を横に振る。
途端、彼はつまらなそうな表情を浮かべ、フィアンマはすりガラス窓越しに空模様を見つつ、サラダを食べた。

雨は、どうにもまだやみそうにない。


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