過去ログ - テッラ「困りましたねー」フィアンマ「言う程困ってもいないだろう」
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68: ◆2/3UkhVg4u1D[saga]
2012/08/06(月) 04:17:57.50 ID:oWEq1YoZ0

フィアンマと対面したのは、無残にも上下に裂かれたテッラの死体だった。
フィアンマは、無表情だった。何も無い。
もう、彼には何も残されていない。
最後の希望であったテッラさえ、喪ってしまった。
死体を清潔にする処理を行いながら、虚ろな表情で、フィアンマはテッラの死体を見つめていた。
まだ、何も伝えていなかった。
好きだとか、大切だとか、ちゃんと言えていなかった。
帰ってきたのなら、生きている内に会えたのなら、言おうと思っていた。
きっと言えると、そう思った。
でも、言えず仕舞いで、テッラの生は終えられてしまった。
フィアンマは、敢えてアックアを憎むような事はしなかった。
恨んで憎んだところで、何かが変わる訳でもない。
ただ、確かに、芽生えかけた大切な『何か』は、踏みにじられて枯れてしまった。
アックアは別室で果たし状を書いている。
処理はしてやる、と申し出、フィアンマはテッラの身体を、最高級のビロードで包んだ。
そして、ほのかに木の香りが漂う桐の箱に詰め。
最低限の、所謂死に化粧と呼ぶべき処理を済ませ、フィアンマはテッラの顔を見つめた。
閉じられた瞼が開く事は、もう二度と無い。


二度と。


フィアンマ「…無事に帰ってくる、という約束を果たしただけか」

死ぬ前に、会えなかった。
あの時起きていれば、会えたとも限らない。
どのみちこうなる運命だったのだろう、とは思う。
ただ、その一言で割り切れる程、フィアンマはもう、冷酷にはなれなかった。

用意してきたナイフは、いたく切れ味が良い。
別に後追いをする訳ではない。
フィアンマは長い長い後ろ髪を掴み、ナイフで真っ直ぐにすっぱりと切る。
セミロング程度になった、ほんの少し不揃いな髪。

フィアンマ「もう、願掛けをする必要もない。願う事など何も無い」

手にもった髪を、フィアンマは手のひらの上で燃やす。
テッラと一緒に死んでしまった、何か、自分の大切なものを、髪に託して。

フィアンマ「…お前さえ居てくれれば、何も要らなかったんだ」

やがて燃え尽き、ただのゴミとなったそれを床に落とし、フィアンマはタバコの火でも消すように踏み潰した。
そして再び膝をつき、箱の中を覗き込む。
ぽた、と床に水滴が落ちた。
目を瞬き、どこから発生している水なのだろうか、と、フィアンマはゆっくりと首を傾げる。
雫がやがて頬を伝い、首筋まで濡らしたところで、フィアンマはようやく自分が泣いている事に気づいた。

フィアンマ「ぁ…?」

どうして泣いているのか、わからなかった。
今までは悲しいと思い、その悲痛さに支配されるままに涙を流していた。
今は、ただひたすらに、喪失感だけなのに。
どうにも、涙がとまってくれそうになかった。息が、苦しい。

フィアンマ「…、そうか」

なるほど、とフィアンマは思った。
自分は、自分が思っていたよりもずっとずっと深く、テッラという、否、――――という男を大切に思っていたのだ。
心地良さに、依存していた面もあった。それは俗に信頼や愛情と呼ばれる。

フィアンマ「……そうか」

何を差し置いても自分を大切にしてくれる彼の事を、いつしか自分も大切に思っていたのだ。
そうだ。
有り体に言い切ってしまうのなら、大好きだったのだ。

フィアンマ「…お前さえ居て、くれれば」

神に祈った。
祈りは届いた。
だが、フィアンマがそれで救われる事は無かった。


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