48:1[saga]
2012/07/31(火) 18:51:44.33 ID:HhSzDBes0
確かに、夢の中の彼女は安心していた。心を支配したのは安著の念に他ならない。
きっと空への旅路に対しても不安など抱かなかったはず。
死した個体達の情報を何度辿ろうと、口角をあげながら死んだミサカは九九八二号以外見つけ出すことは出来ないのだから。
正番外個体が見る夢は各個体が主観的に得た情報から作られる。
第三者の視点は一切含まれず、九九八二号が笑って死んでいった事を客観的に判断する事は難しい。
故に、『口角あげながら死んだミサカ』というものは番外個体個人の推測となる。
ただ。
その中でもわかっている事柄が一つ。
大きな何かに身体が押しつぶされる直前。バッジを胸元で抱きしめた少女の表情筋がほんの微かではあるが動いた。
口角を上げた感覚が一情報としてネットワークの片隅にそっと保存されている、という事実。
九九八二号は実験によって死亡した妹達の中でも比較的『マシ』な終焉を迎えた者だろう。
最期の時を平穏で包まれ、胸の内に負の感情など一欠けらも宿していないであろう個体にも関わらず、何故、自分は彼女の感情を拾い上げてしまうのだろうか?
番外個体は彼女の感情に触れるたび――夢をみるたびに――に疑問に思い続けた。
夢の中の自分は。
……いや、九九八二号番目の、お姉さまの存在をはじめて知ったミサカは。
決められた死は怖くなかった。
左脚がもがれた痛みも麻痺した神経が和らげた。
胸元で自分だけの物を抱いた。
自分には姉がいると言う。
この肉体の基となったお姉さま(オリジナル)。
姉というものは知っていた。ミサカネットワークが擁する知識量は膨大で、妹達は歩く百科事典と言って差支えない存在だ。
姉――きょうだいのうちの、年上の女性。
『アンタ、何者?』
そして出会い、触れあい、貯蔵される知識は飛躍的に増えていった。
90Res/73.98 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。