過去ログ - 禁書目録「それはきっと、幸せだった頃の夢」
1- 20
64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/10/11(木) 21:45:04.49 ID:saHONBLyo
アパートメントの庇に入ると季節ながらの薄寒い空気が首筋から入り込んでくる。
私は思わずコートの合わせを掻き抱き、ほう、とため息をついた。

狭く薄暗い階段を軽やかに一段飛ばしで駆け上がる。
狭い踊り場にステップした右足を軸にくるりと半回転すると、コートの裾がふわりと広がる。
バレリーナには程遠いけれど、何故だか可笑しくて、私は薄く笑みを浮かべてしまった。

この年代物の建物にはエレベーターがない。
おかげで毎回階段を使わなければならない。
私自身はなんだかんだで結構体力はある方だからいいのだけれど、そうでない連中からはかなり不評だ。

三階まで上り、小ぢんまりとした中庭に面した廊下へと出る。
見下ろせば白髪の老婦人がベンチに座って編み物をしていた。
セーターを編むには今からでは遅すぎるような気もするけれど。

「さて」

目的の部屋の前に立ち、私は抱えた紙袋を左手に持ち直すと、右の人差し指を立てドアに触れる。

ちり――と微かな痺れにも似た違和感がある。
注意していなければ冬の空気に冷え切ったドアの冷たさとも、年季の入った金属特有の爪を立てるような痒みとも思えるが。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
125Res/79.92 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice