512: ◆7usAPPBzDI[saga]
2012/09/20(木) 21:23:45.50 ID:/6V9eB9s0
昔ある男がいた。
男は農民であったが、剣術を嗜む珍しい者だった。
物心ついたころから剣術という終わりなき道に惹かれ、没頭した。
家が比較的裕福であり、己が長男でないことをいいことに、ずいぶん好き勝手やっていた。
男には師と呼べるものなどいなかった。
基礎こそ習ったものの、あとは全て独学。
大多数の者にとってはそのような状況での修行など意味をなさないはずだった。
それでも男は愚直なまでに剣を振るい続けた。
そうしていつしか男は境地にたどり着く。
男は何百年に一度という剣の才能をもっていた。
あるときふと男は思った。
空を翔ける燕を切りたい、と。
本人もなぜそのときそう思ったのかは分からない。
だが、その日の思いつきで、男は生涯の目標を決めてしまったのだ。
疾さがたりないーーーならば疾く動けるまで鍛えればいい。
間合いがたりないーーーならば剣を長くすればいい。
それでもとらえられぬーーーならば手数を増やせばいい。
答えるだけなら子どもでもできる内容。
ただ一つ、燕を切るという目標のためだけに、バカバカしいほどの修練を男はこなしていった。
そして最期の時、男はようやく燕を切ることに成功する。
歴史に名を刻むことなく。
ただの一度も戦うことなく。
剣以外のものを知ることなく。
世界にたった5つしかない特権のうちの1つを得た男は、人しれず亡くなった。
その秘剣を男はこう名づけた。
ーーー燕返し、と
708Res/368.28 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。