過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
1- 20
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:04:00.65 ID:4DOG5YTr0

◆No.11  Yukari Sakuragi

4月26日、日曜日。
私と、風見君、赤沢さんの三人は夕見ヶ丘の市立病院へ向かっている。
今日は、来月から転校してくる、榊原恒一君のお見舞いの日だ。
なんでも榊原君は、肺の病気で一ヶ月遅れの転入ということになったらしい。

問題は彼が3組に転入することだ。
座席が一つ足りない。それが「ある年」の条件となっている。
これまで3年3組に転校生が来ることはなかったため、
先週になって、この話が久保寺先生から出た時の、
クラスの動揺はただ事ではなかった。

まだ見ぬ榊原君に対して、失礼なのは重々承知しているけど、
今回のお見舞いはその偵察も兼ねていた。
当初は私と風見君の二人で行く予定だったが、
話し合いの途中で、急遽赤沢さんも行くこととなった。

対策係は私たち三人と、杉浦さん、中尾君の計五名で成り立っているけど、
私と風見君は、委員会の仕事も兼任して何かと多忙なため、
自然と、赤沢さんが中心となって話し合いが進んでいる。

また、対策係ではないものの、演劇部の小椋さんが、
私たちをサポートする形で、積極的に手伝ってくれている。
もっとも、小椋さんは杉浦さんや中尾君と同様に、
赤沢さんの意見にいつも賛同しているので、
日増しに、赤沢さんの発言力が強くなっているのだけれども・・・

閑話休題。
お見舞いに行く前、親睦を深めるためにも、
何をプレゼントしようかという話が出てきた。

「僕はそういうの、あまり詳しくないから・・・」

と風見君が言うので、赤沢さんと何をあげようかと色々話し合った結果、
私の意見が通って、お花をプレゼントすることに決まった。

「私は最初、お菓子がいいかなと思ったんだけど、
ゆかりは、どこかいいお店とか知ってるの?」

「昔、おばあちゃんが入院した時に、私が持ってきたお花を
とても喜んでくれたことがあって・・・今も、そのお店があればいいんだけど」

そうして辿り着いたのは、夕見ヶ丘の麓にある小さな花屋さんだった。
どんな花がいいか、三人とも真剣に迷ったのだけれど、
・・・赤沢さん、その花は中学生が買うには高すぎるんじゃないかな?

「風見君。これなんか、どう?私、昔からこの花が好きだったの」

私が手に取ったのは、色とりどりのチューリップ。
なんと言っても、夜見山市のある富山県はチューリップを県花にしているし、
地元に相応しいプレゼントになると思う。

「チューリップか・・・花言葉は『思いやり』に『博愛』・・・
うん、いいんじゃないかな?」

風見君は、いつもの癖である眼鏡のブリッジを指先で上げながら呟いた。

「風見君、すごーい。よく知ってるんだね」

「いや・・・本を読んで知っていただけだよ」

少し照れくさそうにしながら、風見君はうつむいてしまった。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
154Res/348.26 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice