過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:38:18.69 ID:4DOG5YTr0

この日のホームルームに現れた担任の久保寺は、
なんかいつもと様子が違っていた。
ドアを開けてから教卓に着くまで、やたらと動きがクネクネしたいたのである。
おまけに、今日はなんか大きなカバンを持っている。
あんなカバンを持って来るのを見たのは、今日が初めてだ。

そして最も違和感を覚えたのは、何かに取り憑かれたような表情だった。
一番後ろの席の俺からでも、それははっきり読み取れた。
元々印象が薄く、根暗っぽい感じがするうちの担任だったが、
今日はいつにも増して、この快晴にまるで似合わない、冴えない顔をしていた。
目線も明後日の方向を向いていて・・・
いや、目が泳いでいた、と言った方がいいかもしれない。
久保寺は、いきなりドスン!と大きな音を立ててカバンを教卓に置いたので、
クラスのみんなは一斉に、久保寺へ視線を注いだ。

「みなさん・・・おはようございます・・・
今日は私・・・謝らなければなりません・・・」

そうは言ってるものの、久保寺は俺たちのことを見ようともせず、
視線が宙にさまよいながら、なにやらぶつぶつ独り言を言ってるように思えた。

「この場で・・・どうしても・・・
来年の3月には・・・卒業できるように・・・
そう願って・・・頑張ってきたつもりだったのですが・・・
この後のことはもう・・・みなさんの問題です・・・
始まってしまった以上・・・どうあがいても無駄なのか・・・
あるいは・・・わかりません・・・わかるはずがない・・・!
と言うか、そんな話はもはや、どうでもいいと私は・・・
うぅぅ・・・!」

所々聞こえない部分はあったが、謝っていることだけは何となくわかった。
が、次第に早口に、かつ声のトーンが上がっていき、
なんか変だということを、みんなも感づいたようだ。
そしてその直後、

「ひぃやぁぁぁぁぁおぅぅぅぅぅん!!!」

久保寺はとても人間の声とは思えない雄叫びをあげたかと思うと、
カバンから、どう見てもホームルームには不自然な物体・・・
銀色に怪しく光る、出刃包丁を取り出した。

俺たちが驚く暇もなく、久保寺は相変わらず奇声を発しながら、
めちゃくちゃに包丁をぶんぶんと振り回した。

俺は思わず後ろにたじろいだ。
後ろ姿ではよくわからないが、周りも同じような反応だっただろう。
思えば、この時にでも俺たちは逃げ出すべきだったのかもしれない。
だが、みんな金縛りに遭ったかのように逃げることができなかった。
なぜなら、逃げた人に向かって斬りつけたり、
包丁を飛ばしたりするんじゃないか?などと思ったからだ。

だが、次に取った久保寺の行動は、俺たちの予想を遙かに超えるものだった。
自分の首に包丁を、勢いよくブスリと刺したのである。

『ぐしゃぁ』とトマトが潰れたような鈍い音がして、
久保寺の口からは、血の塊が飛び出すのが見えた。
首だけでなく、顔もシャツも血まみれになった久保寺は、
包丁を刺したまま、しばらくふらついていたが、黒板にもたれかかっと思うと、
最後の力を振り絞るかのように、首を一文字に切り裂き、
包丁が首から離れた次の瞬間、

『ブシャァァァァァァ!!!』

まるでスプリンクラーのように、血しぶきが教室一面に飛び散った。

逃げる用意を始めていたのか、
それともよせばいいのに、怖いもの見たさで様子を見ようとしたのか、
今となっては俺自身よくわからないが、立ち上がっていた俺は、
血しぶきを避けるようにして、座り込んでしまった。

せめてもの幸いか、最後尾の俺の所までは届かなかったが、
血の雨が教室全体に降り注ぎ、二つ前の席にいる水野や望月の頭には、
べっとりと血がこびりついていた。
もっと前の席は、更にひどいことになっていただろう。
天井にも血の跡が付いてるのだから、よほど凄まじい勢いだったに違いない。

そして、自らの血で真っ赤に染まった久保寺は、
糸が切れた操り人形のように、ぐにゃりと倒れながら、
俺の視界から姿が消えた。



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