過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
↓ 1- 覧 板 20
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:40:05.36 ID:4DOG5YTr0
俺は同じ運動部で体育会系の水野・前島・米村と、
昼休みや放課後は一緒にいることが多い。
中尾も運動部だが、あいつは赤沢にべったりなので、あまり話したことがない。
さすがにこんな面々が四人でしゃべっていると、女子が見ると暑苦しいらしい。
誰が言ったか知らないが、俺のことを「男が好きなんじゃないか?」
と噂する女子もいるらしいが、冗談じゃねぇ!
俺だって、コンビニで雑誌のグラビアアイドルを立ち読みしたりする、
年相応の健全な男子だ。もちろん女にモテたい。
俺たちのクラスの男子の間で、人気のある女子と言えば、
一番が死んだ桜木、次いで赤沢、綾野らしい。
しかし俺は、有田が可愛いなと思って、いつしか視線がいくようになった。
赤沢は美人だが性格がちょっときついし、あまりに敷居が高すぎる。
綾野は少しボーイッシュで、友達ならいいが、
あまり女の子っぽくなくて、彼女というイメージがしない。
多々良がランク外なのは少し意外だが、同じ部活に名前の通り“王子”がいるためか、
それとも、彼女にするにはあまりに恐れ多いからなのかもしれない。
有田は格別スタイルが良いわけでも、クラスの中で選りすぐった美人でもないが、
なんとなく庶民的で、親しみやすい感じがした。
笑顔を見せると、結構可愛いし、俺の好みのストライクゾーン直球だった。
そんな有田が苦しそうにしているのを、俺は放っておけなかった。
「有田!こんなところで、なにやってんだよ!」
有田がハンカチを手に当てながら、俺の方を見つめる。
放っておけない。守ってやりてぇ。
そんな思いを口に出すのを堪えながら、
「ほら、いくぞ・・・!」
有田が教室を出るのを促して、俺は和久井を抱えて教室を後にした。
廊下に出て和久井を下ろすと、有田もしっかり付いてきた。
「ちゃんと保健室に連れてやるから、今はゆっくり横になってろ」
そう言って和久井を寝かせると、廊下側に視線を移した。
綾野と小椋は、それぞれ赤沢たちが無事に連れてきたようだ。
辻井が体育座りになったまま顔を伏せて震えており、
望月が助けたらしい江藤も、顔が蒼白になって呆然としていた。
辻井に声を掛けて、大丈夫かどうか様子を見ていると、
教室から二つの人影が現れた。
『いないもの』となっている見崎鳴と榊原恒一・・・
本来ならば、目を合わせることも、その存在を意識することも禁止されているが、
最後に教室を出た二人に、俺だけでなく赤沢や杉浦も視線を向けた。
榊原は肺に気胸を患っていることもあって、
少し息苦しそうにしており、その表情も青ざめていた。
だが、見崎はあんな大惨事があったにもかかわらず、
動揺する様子も全く無く、普段と全く変わらない無表情だった。
まるで、自分の意志が無い人形のように・・・
翌日、あんな事件があったために欠席した俺の元へ、辻井が電話をよこしてきた。
今日のホームルームで、赤沢が榊原と見崎を『いないもの』から
解除することを決定し、連絡網で水野に伝えるようにとのことだった。
登校した生徒は半分にも満たなかったが、誰も異存はなかったらしい。
俺もこの決定に反対はしなかったが、まだ心の中では納得していなかった。
惨劇が起きても平然としている見崎への不信は、
考えてみれば、この時から生じていたのである。
154Res/348.26 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。