過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
↓ 1- 覧 板 20
49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:43:52.96 ID:4DOG5YTr0
◆No.4 Yu Eto
夏休みに行われる県の総体に向けて、
プールでは今日も水泳部のみんなが、練習に余念がない。
わたしも今は余計なことを考えずに、とにかく少しでも記録を縮めようと
泳ぐことにただひたすら打ち込んでいた。
一時はどうなることかと思ったけど、やっぱりわたしの居場所は水の中にあるんだ。
と、つくづく思うようになる。
夏休みまであと一週間を切ったあの日の朝、
久保寺先生が、突然クラスのみんなの前で自殺した。
それも、包丁で自分の首を切り裂くという信じられない形で。
目の前で何が起きたのか、わたしは一瞬わからなかった。
いや、わかりたくもなかったと言った方がいいかもしれない。
おびただしい量の鮮血が教室中に飛び散り、
自分の躰から出た血の海に倒れ伏す先生の惨状を見て、
平常心を保てるわけがなかった。
親友である、彩の悲鳴で我に返ったわたしは、
恐怖が一挙に押し寄せて、金切り声を上げながら号泣した。
「嫌だっ・・・ヤダヤダ!こんなの嘘だっ!」
今この場で起こった惨劇から必死に逃れたくて、
耳を防ぎ、激しく首を横に振りながら、
周りがみんな教室から逃げる中、わたしは机に伏したまま動けなかった。
「・・・江藤さん、江藤さん!大丈夫!?」
当初はその呼びかけにも怯えて、拒絶反応を示したわたしだったけど、
その穏やかな声を聞いて、はっとその声の主がいる方向を見上げた。
わたしのすぐ前の席にいる望月君だった。
制服のシャツに、返り血がいっぱいかかっているにもかかわらず、
わたしの心配をしてまだ教室に残っていたのだ。
「ここは危ないよ、早く廊下に避難しよう」
「・・・うん」
望月君にエスコートされるようにして、わたしはようやく教室を後にした。
だが、まだわたしの中ではこの事実を受け止められたわけではない。
廊下に出たわたしは、望月君にお礼を言うのも忘れ、
ただ呆然とへたりこむことしかできなかった。
154Res/348.26 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。