過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:49:28.42 ID:4DOG5YTr0

◆No.20  Sachiko Nakajima

また、あの赤き血肉の夢を見る。
それは世にもおぞましき悪夢であった。
しかもただの悪夢ではない。
私のまさに目の前で起きた、地獄のような光景がありありと蘇ってくる。
私は懸命に吐き気を堪えて、口を両手で覆った。
それでも喉からわずかな胃液しか出てこない。
吐き出したいものは、もう躰の中に残っていないのだから。

ここは夕見ヶ丘の市立病院の一室。時刻は午前2時を回った辺りか。
私の左腕には点滴の針が刺さっている。
なぜこんなことになったのか。
それは言うまでもなく、あの惨劇から全てが始まった。

私の席は中央の列の前から二番目。桜木さんのすぐ後ろだった。
桜木さんが5月に死んで以来、前に誰もいなくなってしまったため、
私は授業やホームルームを、真正面で受けることとなった。
私は勉強が得意な方なので、隣で時々居眠りをする猿田君のように
注意を受けることもなく、桜木さんが死んだ虚無感を除けば、
特に問題なく学校生活も送っていた。あの日までは。

そう、既に江藤さんたちの手で語られた、久保寺先生が自殺したあの事件。
私は、傘が喉に突き刺さって死んだ桜木さんにも劣らぬ苦しみと恐怖を、
生きながらにして目に、そして躰全体に、深々と刻み込まれたからである。

久保寺先生がカバンから包丁を出して振り回した時は、すぐさま

「殺される・・・!」

という危機感を抱いた。
現に、桜木さんがあの場にいたら、
包丁がかすっていたかもしれない位の近距離であった。
だが、少し前に川堀君が話していたように、
誰もが蛇に睨まれた蛙のように動けず、私もその一人だった。
けど、本当の恐怖はこれからだった。
誰が、クラスの目の前で自分の首を掻き切ると思っていただろうか?

久保寺先生は自分の喉をを突いてしばらくは、
徐々に首元が赤く染まりながら、ふらふらと揺れ動いていたが、
突然、まるでイカかタコが墨を吐くように、
赤黒いものを私の方へ向かって吐き出した。
『べちゃっ』と鈍い音がしたかと思うと、
赤黒い液体が机にペンキのように貼り付き、
何より私の服、腕、そして顔にこびり付いた。
間違いない、先生の血だった。



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