11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)[sage saga]
2012/08/17(金) 00:16:36.08 ID:dqNn1dBeo
まったくバカだ。
上条当麻はそう思う。
「おはよう、はまづら」
滝壺理后が浜面仕上の位牌に手を合わせている――いつもの日課だ――を横目で見ながら、上条当麻は胸中で嘆息した。
グレムリンとのイザコザがすべて解決して、もう一年。
あの戦いは上条とその周囲から様々なものを奪い、そして、様々なものをもたらしていった。
その奪われたもののひとつが位牌の主である浜面仕上であり、得たものが位牌に手を合わせている滝壺理后である。
科学と魔術と、それら混合部隊のせめぎあい。
混合部隊は崩壊し。
科学と魔術はその主を失った。
すべての魔術師の求めるものであり、10万3千冊の知識のみならず、さらに数々の原点得た禁書目録が魔術のトップに立つことは半ば必然であった。
科学を支える大きな基点である電気というエネルギー。その頂点に立つ超電磁砲が、その眷属の守り手である一方通行と共に学園都市を維持するために立ち回ることになったのは意外でもあり、ある意味当然だったのかもしれない。
そのいずれも破壊できる幻想殺しと、超能力という点においては創造すら可能な能力追跡が、科学と魔術の双方から監視されるのは当然であった。
彼らがひとつの大きな住宅で共に生活をすることに対して様々な勢力から抵抗があったものの、最終的には「やむなし」ということで落ち着いている。
「……」
元々は、浜面からの最後の願いだったはずだ。
事切れる寸前。
最期の息が変化した遺言は、彼女を護ってほしいと、そういう意味の言葉。
上条はそれに頷き、そして彼は命を失った。
アイテムという拠り所も同時に亡くした彼女を護り、支えることは、親友とも言える彼の遺言を果たすためだったはずだ。
だが。
「滝壺。そろそろ行かないと講義に間に合わないんじゃないか?」
「あ。そうだね、ありがとうかみじょう。じゃあ、行って来るねはまづら」
頷き、少しだけ慌てた様子で玄関に向かう滝壺の後姿。
その背に、黒い髪がさらりと揺れる。
浜面の死と共にばっさりと、襟元まで切られた彼女の髪は、少しだけ伸びた。
塞ぎこんでいた表情も、最近ではようやく穏やかさと笑顔を取り戻している。
その一端を担ったのは、間違いなく自分だと思う。
しかしそれ以上に、彼女の笑顔を取り戻させたのは、彼の遺品からたまたま見つかった手紙だろう。
遺書、ではない。
きっと何かのドラマに影響された彼が、日ごろの感謝や、これからの浜面仕上と滝壺理后の行く道を、言葉ではなく文字で伝えようとした、その結果だ。
結局、恥ずかしくなったのか、便箋に入れただけで彼の荷物に紛れていたその文面を読んで、ようやく滝壺理后は、彼の亡き後に初めて泪を零した。
結局、10ヶ月近く、彼女の傍にいた上条は、ほとんど何も力になれていなかったのだ。
「はぁ」
上条が彼らしくない調子でため息をつく。
このため息の元となった感情がなんなのか、彼はもう知っていた。
「……」
右手をぎゅっと握る。
そして思う。想う。
これは、この想いは。
彼の遺言に対する、裏切りなのだろうか、と。
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