4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/08/24(金) 19:49:23.80 ID:NZSihzP+o
「ずいぶん山奥なんだね」
レンタカーの窓から流れる景色を眺めながら、後部座席に座る涼がそんなことを呟いた。
実際、そこにあるのは、そんな感想が出て来るのもしかたないくらいの山深い風景。
最寄りの新幹線停車駅まで移動して、さらに一時間車を飛ばして、ようやく指定された場所に近づいてきているところだ。
「ごめんね。もうしばらくだから」
「ううん。別に構わないよ」
涼の柔らかな笑顔をバックミラー越しに見つめて、私は複雑な気持ちになった。彼が浮かべているのは、確かに魅力的な笑顔ではあるが、それは
営業スマイルに近い。
昔、見せてくれていた笑顔とは、少し変わってしまった。あるいは、そう感じるのは涼が着けている衣服のせいもあるのかもしれない。
女性アイドルとして売れっ子となり、そして、ほんとうは男性であるという事実をカミングアウトすることに失敗した――圧力を受けてどうしようも
なかった――涼は、その後、どんな時でも女装を貫いた。
オフの時や、事情を知る私と会う時くらいは男の姿をしても良いだろうに、そうやんわりと促したのだが、ファンのために偽りであっても女性として
活動を続けたいと主張する彼は、けして本来の性にふさわしい服装をとることはなかった。
そう、彼は、外から見るだけでは可愛らしい女の子にしか見えない姿を、いまもしている。
無理をしているだろうとは思っても、どうやってそれを解きほぐして良いかわからない。私は彼のプロデュースをするようになってから、このことに
悩まされ続けている。
とはいえ、現状の仕事は『女性としての秋月涼』を求めていて、今日もそれは同じだ。
まずはそちらに集中しよう、と目的地に向けて、車を走らせる。
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