102:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 21:44:14.96 ID:bOaug2Ec0
青年「そうかも知れませんね。
わたくしはあなた方がいまにその中の一人、神さまの前にわたくしたちとお会いになることを祈ります。」
青年はつつましく両手を組んだ。女の子もちょうどその通りにした。
みんなほんとうに別れが惜しそうでその顔いろも少し青ざめて見えた。
男はあぶなく泣き出しそうになって、右手で口元を押さえた。
「さあもう支度はいいんですか。じきサウザンクロスですから。」
ああそのときだった。
見えない天の川のずうっと川下に、青や橙やもうあらゆる光でちりばめられた十字架が、
まるで一本の木という風に川の中から立ってかがやき、その上には青じろい雲がまるい環になって後光のようにかかっているのだった。
汽車の中がまるでざわざわした。
みんなあの北の十字のときのようにまっすぐに立ってお祈りをはじめた。
あっちにもこっちにも、子供が瓜に飛びついたときのような、
よろこびの声や何とも言いようない深いつつましいためいきの音ばかりきこえた。
そしてだんだん十字架は窓の正面になり、
あの苹果の肉のような青じろい環の雲もゆるやかにゆるやかに取り巻いているのが見えた。
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