37:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 00:29:46.04 ID:bOaug2Ec0
「ハルレヤ、ハルレヤ。」
前からもうしろからも声が起こった。
ふりかえって見ると、車室の中の旅人たちは、みなまっすぐにきもののひだを垂れ、
黒いバイブルを胸にあてたり、水晶の数珠をかけたり、どの人もつつましく指を組み合せて、そっちに祈っているのだった。
思わず二人もまっすぐに立ちあがった。
小さな十字架が映る女の瞳は、
まるで水に浮かぶ青い一等星のようにうつくしくかがやいて見えた。
そして島と十字架とは、だんだんうしろの方へうつって行った。
向う岸も、青じろくぽうっと光ってけむり、時々、やっぱりすすきが風にひるがえるらしく、
さっとその銀いろがけむって、息でもかけたように見え、
また、たくさんのりんどうの花が、草をかくれたり出たりするのは、やさしい狐火のように思われた。
それもほんのちょっとの間、川と汽車との間は、すすきの列でさえぎられ、
白鳥の島は、二度ばかり、うしろの方に見えましたが、
じきもうずうっと遠く小さく、絵のようになってしまい、またすすきがざわざわ鳴って、とうとうすっかり見えなくなってしまった。
男のうしろには、いつから乗っていたのか、せいの高い、黒いベールをかけたカトリック風の尼さんが、
まん円な緑の瞳を、じっとまっすぐに落して、まだ何かことばか声かが、そっちから伝わって来るのを、
つつしんで聞いているというように見えた。
旅人たちはしずかに席に戻り、二人も胸いっぱいのかなしみに似た新らしい気持ちを、何気なくちがった語で、そっと談し合ったのだ。
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