32: ◆0WipXNi8qk[saga]
2012/08/28(火) 15:43:26.87 ID:cG88bZ7Ho
よし、ここは軽い流れで言ってしまうのがいいだろう。
「俺がさっき言った台詞リア充っぽかったろ? 一度言ってみたかったんだよな……なんて」
「…………」
空気が凍った。
体育館の中は今だに熱気に包まれているにもかかわらず、ここ一帯だけが酷く冷えきったように思える。
まるで俺達がいるこの空間だけ切り取られて、周りから浮いているような、そんな感覚だ。
夜空は目を見開いて俺を見て、それから俯いてしまった。
しばらくそのままで何も話さず、俺もどうすればいいのかわからない。
深く俯いてしまっているので、その表情を読むこともできない。
幸村はいつもの無表情でただ成り行きを見守っており、マリアは相変わらずキョトンとしている。
夜空が、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……私は言ったはずだぞ」
「え……?」
「私は小鷹が好きだと言ったのに!!!!! なんで……なんでお前は……っ!!!!!」
夜空が大声を出して顔を上げた。
俺は彼女の顔を見て、息を飲む。
瞳からは大粒の涙が溢れ頬を伝い、それを拭おうともしない。
目を真っ赤にして、真っ直ぐ俺を睨む夜空に、指一本動かせなくなる。
こんな夜空の表情は今まで見たことがない。
俺はその表情を見て、胸にナイフを突き立てられたような、鋭い痛みを感じる。
彼女をこんな風にしてしまったのは自分なのに、俺は何も言うことができない。
夜空は俺の胸元を両手で掴んだ。
「お前は私の心を弄んでそんなに楽しいのか!? 一瞬だけ喜ばせて、その後落胆させて面白がっているのか!?」
「ち、違う!! 夜空、俺は……」
「もしかして私の告白も冗談だとか思っているのかお前は!? それとも本気だと分かっていてその上でからかっているのか!?
お前は……お前はそんな事する奴じゃないと思っていたのに!!!」
「冗談だなんて思ってない! それにからかってるわけでも……!」
「もういい!!!」
ドンッと夜空が俺を突き飛ばした。
そして、俺がよろけた瞬間、背中を向けて走りだして行ってしまった。
俺は、ただその後ろ姿を見ていることしかできない。
追いかけて、引き止めて、今の俺が何を言えばいいんだ。
何も浮かんでこない。むしろ、さらに傷つけてしまうのではないかとさえ思う。
周りがざわざわとこちらを見ているのを感じる。
あれだけ大声を出していれば、それも当然なのだろう。
夜空は周りに人がいるのも気にせずに、幸村やマリアも聞いているのを分かった上で話していた。
ふいにボカッと、右腕に軽い衝撃が走る。
幸村が、叩いてきた。
「……あにき、ばか」
幸村はただ悲しそうにそう言うと、夜空と同じように背を向けて歩いて行ってしまった。
その声は大きくもなかったし、とても短いものだったが、俺の胸に大きな痛みを落とす。
ただマリアだけが何が起きているのか分からずに俺を見上げて、
「二人ともどうしたのだ?」
俺は何も答えることができなかった。
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