101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/09/07(金) 23:28:15.04 ID:FR2r4LMjo
僕たちは寄り添って帰路に着いた。さっきファミレスではあれほど話が盛り上がっ
て、僕のくだらない冗談に涙を流すほど笑ってくれたナオだったけど、駅に向う途中
でも、そして電車が動き出した後も彼女はもう自らは何も話そうとしなかった。
ナオはただひたすら僕の腕に抱きついて身を寄せているだけだったのだ。週末の車内
は空いていたので僕たちは寄り添ったまま座席に着くことができた。ナオは黙って僕の
腕に抱きついているだけだったけど、その沈黙は決して居心地の悪いものではなかった。
「・・・・・・この駅です」
途中の駅に着いた時ナオが言った。
「じゃあ、途中まで送って行くね」
ナオはこくりと頷いた。
さっきのピアノ教室があった駅と同じで、駅前は完全に住宅地の入り口だった。何系
統もあるバスがひっきりなしに忙しく駅前広場を出入りしている。
「こっちです。歩くと十分くらいですけど」
「うん」
「もっと家が遠かったら一緒にいられる時間も増えるのに」
ナオがぽつんと言った。
僕の腕に抱きついて顔を伏せているこの子のことがいとおしくて仕方がなかった。僕
にできることなら何でもしてあげたい。僕はナオに笑顔でいて欲しかったのだ。
閑静な住宅街であることはさっきのピアノ教室と同じで、ナオの家がある街は綺麗な
街並みだった。道の両側に立ち並ぶ瀟洒な家々からは暖かそうな灯りが洩れて通りに反
射している。
「あの角を曲がったところです」
ナオが言った。
「じゃあ、僕はこの辺で帰るよ」
ナオは僕の腕から手を離した。そして再び黙ってしまった。
僕はナオの両肩に手をかけた。彼女は目を閉じて顔を上げた。僕はナオにキスした。
ナオと別れた帰り道、どういうわけか方向音痴の僕は再び迷わずに暗い街並みを抜け
て駅前まで帰り着くことができた。
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