231:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/09/30(日) 19:17:00.58 ID:P7aT+clno
並んで座っているユキとの距離が近かったせいでユキの顔は一瞬どきっとしたほど僕の
すぐそばに近寄っていた。
僕は以前どこかで読んだことを思い出した。
対人距離という概念があって、人によってその距離感は異なるそうだ。相手との距離が
だいたい50センチ以下になる距離は密接距離と呼ばれている。それは格闘をしている場
合などを除き、愛撫、慰め、保護の意識を持つ距離感であるそうだ。
逆にそういう親密な関係にない他者を近づけたくない距離と捉えた場合、同じ距離であ
ってもそれは排他域とも呼ばれる。
多分僕はこの排他域が人より大きいのだと思う。ついこの間まで僕の持っている排他域
に踏み込んでくる人は誰もいなかったし、僕はそのことに満足していた。
でも最近は僕の排他域に入り込んでくる人が増えていた。いつの間にか抱きついたりベ
ッドに潜り込んでくるようになった妹の明日香。僕の腕にしがみついて身を寄せてくれる
ナオ。
ナオは僕の恋人だからそれは密接距離だ。ナオに対して愛撫・・・・・・、はともかく慰めや
保護欲は感じているしナオと密着していることは素直に嬉しい。
妹について言えば今までは妹の接近は居心地がいいとは言えなかった。僕はいつも明日
香のことを警戒していたのだ。でも今朝明日香が僕の隣に寝ていることを知っても僕は別
に居心地の悪い思いをしなかった。むしろ昨晩の楽しいひと時が終って寂しそうな妹を慰
めたいとまで思ったくらいに。もちろん思っただけで口に出したりはしなかったけど。
妹との距離も確実に縮まっているのだろう。別にそれは悪いことではない。まあ明日香
が僕を好きだと言った言葉があまり重いものだとそれは問題ではあるけれど。
その距離の中に突然踏み込んできたユキは別に居心地が悪るそうな様子はなかった。
「そうですよ。ナオトさん、それ奈緒ちゃんから聞いたの?」
僕はユキに受賞者の一覧が掲載されたプリントを渡した。
「ああこれで見たのね。あたしいつも奈緒ちゃんより下なの。でも奈緒ちゃんは特別に上
手だから」
そのことをあまり気にしている様子もなくユキは笑った。
「本当にナオちゃんと仲がいいんだね」
「うん。でも明日香さんとナオトさんだって仲がいいじゃない。何度も言うけどうらやま
しい」
ユキはいつの間にか敬語を使わなくなっていた。どうも人見知りしない子らしい。そし
て明るい笑顔と一緒にそういう言葉が出ているせいか、僕は年下の女の子にタメ口で話さ
れても少しも不快感を感じなかった。
明日香も同じことを考えているようだった。
「さんはやめて。明日香でいいよ」
「そう? じゃあ明日香も有希って呼んでね」
明日香は何かを期待しているかのように僕の方を見たけど、そういうわけにはいかない。
少なくとも今はまだ。
そのうち僕がナオを呼び捨てできるようになりナオもそうしてくれるようになるといい
のだけど、そうなる前にナオの親友とお互いを呼び捨てしあうような仲になるのはまずい。
ユキの件では地雷を踏んだばかりだし、こうして会っていることすら本当は心配なくら
いなのだ。
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