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318:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/12(金) 00:04:55.60 ID:s/mXof6Yo

「さてどこから話すかな。最初は明日香は知っている話になるな」

 明日香はうなずいた。

「最初から話して。お兄ちゃんは何も覚えてないと思うから」

「そうだね。じゃあ奈緒人の話からしようか。奈緒人、あんた自分の実のお母さんとか実
の妹、まあ奈緒ちゃんなんだけど、この二人のこと今まで全く思い出したことないって本
当?」

 ナオの名前が叔母さんの口から出たとき、明日香は僕の手を握る自分の手に力を入れた。
気をつかってくれているのだ。でもナオの名前を聞いても不思議と動揺はなかった。この
先の話に気を取られていたせいかも知れない。

「うん。変なのかもしれないけど、父さんと今の母さんと明日香とみんなで一緒に公園で
遊んでいたときの記憶が多分僕の一番昔の記憶なんだ。僕が小学校に上がるより前だと思
うけど」

 明日香が妙な表情をした。

「結城さんと姉さんから一応話は聞いたんでしょ?」

「うん。父さんと母さんは再婚同士で、僕は母さんの本当の子どもではなくて明日香も父
さんとは血が繋がっていないって」

「再婚が何年前か聞かなかった?」

「うん。それは聞いていないな」

「明日香?」

 叔母さんが明日香を見た。

「あたしは知ってるよ。去年聞いたわけじゃなくて自分ではっきりと覚えてる」
 明日香は僕から視線を逸らした。「ママが再婚して今のパパがあたしのうちに来たのは
あたしが小学生になったばかりの頃だよ」

「うん。明日香の記憶は正しいな。奈緒人、あんたに新しい家族ができたのはあんたが小
学校三年の頃だったよ、確かに」

「そうなんだ。ごめん、やっぱり全然思い出せない。もっと前から今の家族と一緒に暮ら
していたような気がするだけで」

 今の僕にはそうとしか言えなかった。僕に残っている一番古い記憶は公園で明日香を遊
ばせているひどく曖昧な思い出だけだった。あのとき、逃げ惑う鳩をよちよちと追い駆け
ていた明日香が転ばないように、僕ははらはらしながら明日香を追い駆けてたんじゃなか
ったか。

 そしてそのときの自分が目の前をよちよちと危なげに歩いている女の子をどんなに大切
に思っていたか、僕はその感情さえ思い浮かべることができた。それはまだ仲が悪くなる
前の明日香と僕の貴重な記憶だった。

「だからさ。あんたも少なくとも奈緒ちゃんの記憶はあるってことだよ」

「どういうこと?」

 僕は混乱した。自分の中ではナオの記憶なんて欠片も残っていないのに。

「お兄ちゃんが公園であたしと遊んだ記憶ってさ、それあたしじゃないと思うよ」

 明日香が目を伏せて言った。

「あんたが明日香と暮らし始めたのは、あんたが小三で明日香が小学校に入学した頃だか
らさ。あんたの記憶の中の幼い兄妹っていうのは、あんたと奈緒ちゃんだろうね」

 叔母さんがそう言った。


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