372:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/21(日) 23:06:37.01 ID:i463RUoMo
遅刻した奈緒がその日学校でどういう言い訳をしたのか考えると、自然と頬が緩んでき
た。中学に入ってから一度も遅刻や学校を休んだことがないと前にあいつから聞いていた
ことを思い出したからだ。きっと奈緒は先生に言い訳するのに苦労したに違いない。
あの日以来初めて僕は心底くつろいだ気分になれた。今は放課後で僕はぼんやりと奈緒
のことを思い出しながらゆっくりと帰り支度をしているところだった。兄友は女さんの買
物に付き合うとかで早々に二人揃って教室を出て行ってしまい、教室の中はもう数人の生
徒が帰り支度をしているだけだった。
僕が奈緒に関して心配していたことは全て杞憂だった。あれだけ悩んだ挙句、奈緒に本
当に深刻な傷をつけないために、奈緒には失恋というより小さな傷を与えることにした僕
だったけど、奈緒は僕が兄であると知って傷付くどころかすごく喜んだのだ。
同じ事実を知ったときの僕が受けた衝撃なんか、彼女は少しも受けないようだった。そ
してその理由を考えてみると思い浮ぶことがあった。
僕が自分の記憶を封印して妹や母親のことを全く覚えていなかったのと対照的に、奈緒
は過去の記憶を失ってはいなかったようだ。僕が思い出した過去の断片的な記憶ですらあ
れだけ切なく悲しかった。両親によって奈緒と引き剥がされた喪失感が、今再び恋人であ
るナオを失おうとしている感情とあいまって、精神に深刻な打撃を受けたくらいに。
奈緒は過去の記憶を失っていなかった。そして兄である僕から無理矢理引き剥がされた
奈緒は、僕のことを無理に忘れようと努力しながらこれまで生きてきたのだ。それでも奈
緒は僕のことが忘れられなかった。彼氏すら作る気がしないほどに。
それに奈緒は兄と知らずに僕と付き合い出してからも、幼い頃引き離された兄に対して
罪悪感を感じていたのだという。
そんな奈緒のことだから自分の彼氏が兄だと知ったとき、悲しむより喜んだことについ
ては僕にも納得できる話だった。
依然として僕が初めての彼女を失った事実には変りはない。でも僕はその代わりに妹を
失った記憶取り戻し、そして今その妹を取り戻した。何よりも恐れていたように奈緒も傷
付かずにもすんだ。
この先僕たちは恋人同士としてはやり直しはできないけど、兄妹としてはずっと一緒に
いることはできる。それだけでも僕は心の安寧を手にした気分だった。
久しぶりにゆったりとした気持ちで僕は教室を出た。これから奈緒を富士峰の校門まで
迎えに行かなければならない。奈緒は僕が兄だと知ったときから、かつて僕が彼氏だった
ときのような遠慮をしないことにしたらしい。
さっき別れ際に遠慮のない口調で、放課後富士峰の校門まで奈緒に迎えに来るように言
われた僕は二つ返事でそれを受け入れたのだ。
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