374:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/21(日) 23:08:09.87 ID:i463RUoMo
「そう言えば普段はユキさんと一緒に帰ってるんじゃなかったっけ」
僕は最後に見かけたときのユキの冷静で冷酷な印象すら受けた横顔を思い出した。
「今日は用事があるから一緒に帰れないって言ってきたんだけど・・・・・・」
奈緒は少し戸惑っているようだった。
「うん? どうした」
「うん。何か今日はあの子様子が変だった。妙にそわそわしてて、落ち着きがなくて。あ
たしが先に帰るねって言ってもちゃんと聞いてないみたいだったし」
「何かあったのかな」
「う〜ん。昨夜電話をくれたときはすごく怒っていたけど」
「・・・・・・そうだろうな」
「そうだよ。親友がひどい浮気性の彼氏に冷たく振られそうになっていたんだしね」
「おい」
奈緒は笑った。それはやっぱりすごく可愛らしい表情だった。
「冗談だよ。あたしさっきはお兄ちゃんに再会して浮かれちゃったけど、あれから考えて
みたの。何でお兄ちゃんがあたしを振ろうとしていたのか」
「うん」
「自分の彼氏が本当のお兄ちゃんだと知って、あたしが傷付かないように自分が悪者にな
ろうとしてくれたんでしょ?」
「奈緒」
「ありがとうお兄ちゃん」
奈緒が微笑んだ。
「うん」
何か顔が熱い。まぶたの奥もむずむずする感じだ。
「お兄ちゃん?」
「うん」
僕は同じ言葉を繰り返した。
「パパもママもいらないよ。僕は奈緒と二人でずっと一緒に生きるんだ。それでいいよ
な? 奈緒」
奈緒があのときの僕の言葉を繰り返した。「覚えてる? あたしがそのときに何て答え
たか」
「ああ。覚えているよ」
正確に言うと思い出したというのが正しいのだけれど。
「うん。ママなんか大嫌い。お兄ちゃんがいいよ。お兄ちゃんだけでいいよ」
奈緒が記憶の中にあるのと正確に同じ言葉を繰り返した。あのときの絶望感とその後の
喪失感とつらかった日々。もう我慢も限界だった。僕は泣き始めた。
「あたしの気持ちはあれから十年間経っても全然変わっていないの。今でもお兄ちゃんだ
けでいいって、自信を持って言えるもの」
泣いている僕を抱きかかえるようにしながら奈緒は柔らかい声で言ったけど、奈緒の声
の方も雲行きが怪しくなっているようだった。
「・・・・・・今は泣いてもいいのかも。あたしたち、十年もたってあれから初めて会えたんだ
もんね」
奈緒と僕は富士峰の女生徒たちの好奇の視線に晒されながらお互いに手を回しあって、
まるであの頃の小さな兄妹に戻ってしまったかのように泣いたのだった。
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