746:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/20(木) 23:13:38.99 ID:tOg9VqEDo
それに麻季は奈緒人だけにかまけていたわけではなかった。この頃の僕はちょうど仕事
を覚えてそれが面白くなっていた時期でもあったし、少しづつ企画を任されて必然的に多
忙になっていった時期でもあった。だから育児に協力したいという気持ちはあったけど、
実際にはニ、三日家に帰れないなんてざらだった。なので出産直後のように奈緒人をお風
呂に入れるのは僕の役目という麻季との約束も単に象徴的な夫婦間の約束になってしまっ
ていて、たまの休日に「パパ、奈緒人のお風呂お願い」と麻季に言われて入浴させる程度
になっていた。それすら麻季は育児に協力できないで悩んでいる僕に気を遣って言ってく
れたのだと思う。ろくに育児に協力できない僕の気晴らしのためにわざと奈緒人を風呂に
入れるように頼んでくれていたのだろう。
どんなに育児に疲れていても僕に対するこういう気遣いを忘れない彼女のことが好きだ
った。僕は麻季と結婚してからどんどん彼女のことが好きになっていくようだ。そして麻
季も夫婦間のセックスを除けば、そんな僕の想いに応えてくれていた。この頃は僕も忙し
かったけど麻季だって育児に追われていたはずだ。それでも彼女は一日に何回も仕事中の
僕にメールしてくれた。
奈緒人が初めて寝返りをうったとき。奈緒人が初めて「ママ」と呼んだとき、奈緒人が
初めてはいはいしたとき。
その全てのイベントを僕は仕事のせいで見逃したのだけど、麻季はいちいちその様子を
自宅からメールしてくれた。そのおかげで僕は息子の成長をリアルタイムで感じることが
できた。当時は今ほど気軽に画像を添付して送信できなかった時代だったので麻季からの
メールには画像はなかったけど、それを補って余りあるほどの愛情に満ちた文章が送られ
てきたのだ。
麻季は昔から感情表現が苦手な女だった。それは結婚してからも同じだった。それでも
僕たちが幸せにやってこれたのは僕が彼女の言外の意図を読むことに慣れたからだった。
でも仕事のせいで麻季と奈緒人にあまり会えない日々が続いていたせいで、麻季は僕との
コミュニケーションにメールを多用するようになった。そして、目の前にいる彼女の思考
は読み取りづらくても、メールの文章は麻季の考えを明瞭に伝えてくれることが僕にもわ
かってきた。文章の方がわかりやすいなんて変わった嫁だな。僕は微笑ましく思った。
そういうわけで麻季の関心が育児に移ってからも彼女の僕への愛情を疑ったことはなか
った。それは疲れきって自宅に帰ったときに食事の支度がないとか、風呂のスイッチも切
られていたとかそういう次元の不満がないことはなかったけど、僕が帰宅すると奈緒人と
添い寝していた麻季は寝床から起き出して、疲れているだろうに僕に微笑んで「おかえり
なさい」と言って僕の腕に手を置いて軽くキスしてくれる。
それだけで僕の仕事のストレスは解消されるようだった。
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