760:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/23(日) 22:33:42.86 ID:tH/dTWjVo
ほとんど眠れなかった僕は翌日ソファで強張った体を起こした。体に掛けられていた毛
布が体から滑り落ちて床に広がった。麻季が僕に毛布を掛けたのだろう。その記憶がない
ところを見ると僕は少しは眠ったのかもしれない。
家の中は妙に静かだった。もう朝の九時近い。
ソファで無理のある姿勢で一晩を過ごしたせいで体の節々が痛かった。僕は起き上がっ
て寝室の様子を覗った。寝室からは何の気配もしない。麻季のことはともかく奈緒人がど
うしているか気になった僕は寝室のドアをそっと開けて中を覗き込んだ。
ドアを開けた僕の目に麻季がベッドの上で奈緒人に授乳している光景が目に入った。麻
季も昨晩の告白に悩んでいたはずだけど、このときだけは自分の白い胸に夢中になってし
ゃぶりついている我が子のことを慈愛に満ちた表情で見つめていたのだ。麻季は寝室のド
アが開いたことにも気がついていない様子だった。
このとき僕が我を忘れて見入ったのは麻季ではなく奈緒人だった。もう離乳食を始めて
いたはずなのだけど、このときの奈緒人は母親の乳房に夢中になって吸い付いていたのだ。
自分の妻と自分の息子なのだけど、このときの母子の姿は何というか神々しいという感
じがした。
「おはよう」
麻季はさぞかし僕に言い訳したかっただろう。でも彼女は僕の方を振り返ることをせず、
「しっ」と僕を優しくたしなめた。
「・・・・・・ごめんなさい。久し振りに奈緒人がおっぱいを欲しがってるの」
「うん、そうだね。ごめん」
僕は寝室のドアを閉じた。やがて麻季が寝室から出てきてリビングのソファでぼんやり
とテレビを見ている僕の向かいに座った。いつもなら迷わず僕の隣に座るのに。
「ごめんね。もう離乳できてたはずなんだけど、今日は奈緒人はおっぱいが欲しかったみ
たい」
「奈緒人は?」
「お腹いっぱいになったら寝ちゃった。ベビーベッドに寝かせてきた」
「そうか」
「ごめん」
何で麻季は謝るのだ。奈緒人のことで彼女が謝る理由なんて一つもない。むしろ謝るの
は他のことじゃないのか。さっき見かけた母子の美しい様子が僕の脳裏に現われてしまっ
た。でも昨晩の麻季の告白が思い浮んだ。麻季の謝罪は浮気についてなのだろうか。僕は
混乱していた。これでは冷静な判断ができない。
「奈緒人は離乳が早いよな」
僕は何となくそう言った。
「そうね。長い子だと卒乳するのが四歳とか五歳の子もいるみたいだよ」
「そうか」
「・・・・・この子も感じていたのかもね。自分の母親が自分だけの物の乳房を父親でもない
男に触らせてたって」
彼女は暗い表情でそう言った。僕は麻季の言葉に凍りついた。
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