802:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/02(水) 23:33:27.20 ID:/qHo0BApo
「博人君、玲菜のこと覚えてるの?」
「とにかく一緒に行こう。僕は外で奈緒人をみながら手を合わせているから」
僕は確かに泣いていた。麻季の目の前で泣いてはいけないことはわかっていたし、玲菜
だってそれは望んでいなかっただろう。でもこれはあんまりだ。鈴木先輩と麻季の不倫に
悩んだ挙句、彼女は自分の娘だけを生きがいに生きて行こうとしていたのに。
「あとで全部話すよ。とにかく出かけよう」
麻季はもう逆らわずに奈緒人を抱いて車に乗った。僕には今でも自宅から斎場まで運転
したときの記憶がない。麻季によれば僕はいつものとおり荒くない安全運転で斎場まで麻
季を連れていったそうだ。
僕の記憶は通夜の弔いを済ませた麻季が青い顔で車のドアを開けたところまで飛んでい
る。そこから先の記憶はある。
麻季がいつもは奈緒人と並んで座る後部座席ではなく助手席のドアを開けて車内に入ってきた。
「何で?」
「何でって?」
僕はそのとき冷たく答えた。玲菜の死には先輩にも麻季にも関わりがないことだった。
でもそのとき意識を覚醒した僕は玲菜の淋しそうな微笑みを思い出した。玲菜の死に責任
はないかもしれないけど、その短い生涯を閉じる直前に玲菜を追い詰めた責任は彼らにあ
る。
「何で親族席に鈴木先輩がいたの。何で鈴木先輩が取り乱して泣き叫んでいたの」
離婚して間がないことから親族の誰かが気をきかせたのだろう。もう離婚していたので
あいつにはその席で玲菜の死を悼む権利なんてないのに。
「とりあえず家に帰ろう。奈緒人も疲れて寝ちゃっているし」
「博人君は何か知っているんでしょ。何であたしに教えてくれないの。親友の玲菜のこと
なのに」
助手席におさまったまま麻季は本格的に泣き出した。
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