過去ログ - ビッチ
1- 20
803:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/02(水) 23:35:27.14 ID:/qHo0BApo

 その日も陰鬱な雨が降りしきっていた。

 午前中に麻季の実家に奈緒人を預けた僕と麻季は、僕の運転する車で都下にある乳児院
を併設した児童養護施設に向っていた。本来ならもう桜が咲いていてもいい季節だったけ
どその日は冬が後戻りしたような肌寒い日だった。

 やがて海辺の崖に面している施設の入り口の前に立ったとき、僕は隣に立っている麻季
の手を握って問いかけた。

「本当にいいのか」

「うん。もう決めたの。博人君はあたしを許してくれた。そして玲菜も鈴木先輩を奪おう
としたあたしを許してくれていたとあなたから聞いた。信じてくれないかもしれないけど、
あたしはあなたと奈緒人が好き。一番好き。もう迷わない。あなたはそんなあたしのこと
を信じているって言ってくれた。本当に感謝しているの」

「それはわかったよ。でも血が繋がっていない子を引き取るとか・・・・・・本当に大丈夫なの
か」

 麻季は僕の手を強く握った。

「大丈夫だよ。あたしは玲菜の子どもを立派に育ててみせる。玲菜はあたしのせいで離婚
したんでしょ。本当なら両親に祝福されて生まれて大切に育てられていたはずなのに」

「そう簡単なことかな。奈緒人だってまだ手がかかるのに」

「博人君は君の好きなようにすればいいって言ってくれたでしょ。今になって心配になっ
たの?」

「違うよ。君が決めたんなら僕も協力する」

 僕はそのとき玲菜のことを思い出した。

 玲菜。わずか数回しか顔を会わせなかった玲菜。

 旦那の浮気に対して毅然として立ち向かった玲菜。腰砕けでだらしない僕をさりげなく
慰めてくれた玲菜。こんな僕のことを好きだったって最後のメールで告白してくれた玲菜。

 彼女はもういない。熱を出した娘を病院に連れて行った帰りに暴走した車に引かれて彼
女は死んだ。

 麻季の話では、玲菜は即死ではなかった。自分が抱きしめて守った娘のことを最後まで
気にしながら救急車の到着前に現場で息絶えたそうだ。

「行こう、博人君」

「うん」

 僕たちは手を繋いだまま施設の中に入った。施設の中に入ると大勢の子どもの声が耳に
入った。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/1204.35 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice