805:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/02(水) 23:37:42.29 ID:/qHo0BApo
「あたし、鈴木先輩と話す」
養護施設の職員から制度の説明を受けたあと、施設を後にした麻季は僕にきっぱりと言
った。「絶対に了解させるから」
そのとき自分の言葉の勢いに気がついた麻季は一瞬うろたえた様子で僕を見た。
「博人君違うの。別にあたしが言えば先輩が言うことを聞くとかそういうことじゃなく
て」
最後の方は聞き取れないくらいに小さい声で麻季は言った。
「もういいよ。僕たちはお互いに全部さらけ出した上で、やり直すことを選んだんだ。今
さらそんなことを気にしなくていいよ」
「・・・・・・だって」
「決めた以上はお互いに気を遣ったりするのやめようよ。僕も正直に君への気持とか、玲
菜さんに惹かれたことがあることも話したんだ。もうお互い様じゃないか」
「それはそうだけど・・・・・・。博人君の話を聞いていると、あなたは本当は玲菜みたないな
子の方が似合っていたんじゃないかと思ってしまって。あなたが玲菜の気持に応えていた
ら今頃玲菜も幸せに暮らしてたのかな。そんなことを考える資格はあたしにはないのに
ね」
「もうよせよ。それより本当に先輩に話すの? 勝算はあるんだろうな」
「大丈夫だと思う」
「僕が先輩に話した方がいいんじゃないか」
「・・・・・・ううん。あたしにさせて。もうあたしと先輩が何とかなるとか絶対ないから。先
輩が独身だってあたしに嘘を言ったことよりも、離婚したとはいえ自分の子ども引き取ら
ずに施設に預けるような人だと知ってもう彼には嫌悪感しか感じない。友だちがほとんど
いないあたしにとって玲菜はようやくできた親友だったの。散々裏切っておいてこんなこ
とを言えた義理じゃないけど、お願い。あたしを信じて」
僕は彼女を信じて施設からの帰り道に先輩がいるだろう横浜市内にある横フィルのリ
ハーサルスタジオに麻季を送り届けた。
「待っていてくれる?」
「もちろん」
二時間後に横フィルのスタジオから麻季が早足で出てきた。車のドアを開けて助手席に
乗り込んだ麻季は僕に法廷同意人である鈴木先輩の署名捺印がある用紙を見せた。
「お疲れ」
「うん。あたし頑張ったよ」
麻季が僕に抱きついて僕の唇を塞いだ。周囲の通行者たちからは丸見えだったろう。
その後は児童擁護施設の研修や施設職員の家庭訪問や面接があった。最終的に家庭裁判
所の許可を経て僕たちは養子縁組届を区役所に提出した。
こうして亡き玲菜の忘れ形見である女の子、奈緒が僕たちの家庭にやって来たのだった。
1002Res/1204.35 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。