過去ログ - ビッチ
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811:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 23:45:24.03 ID:VyIo5u+Ro

 奈緒人と奈緒は初顔合わせの瞬間からお互いにうまが合うようだった。まだ奈緒は幼い
けれど、奈緒人の方はもう自我が出来上がり出す頃だったので、僕と麻季はそのことが一
番心配だったから、奈緒人と奈緒が仲がいいこといは心底からほっとした。僕たちの心配
をよそに二人はすぐにいつも一緒に生活することに慣れたようだった。

 麻季も育児自体は奈緒人で慣れていたから奈緒を育てることに戸惑いはないようだった。
この頃の僕は相変わらず仕事は忙しかったけど、それでもいろいろやりくりしてなるべく
早く帰宅し、週末も家にいるようにしていた。そのせいで昼休も休まずに仕事をする羽目
にはなったのだけど。

 毎日帰宅すると僕は迎えてくれる麻季に軽くキスしてから子どもたちを構いに行った。
奈緒人はだいたい起きていて僕に抱きついてきた。奈緒はまだ幼いので眠っていることも
多かったけど、たまに起きている時は僕の方によちよちとはいはいしてきて抱っこをねだ
ったものだった。そんな僕と子どもたちの様子を僕から受け取ったカバンを胸に抱いたま
ま、麻季は微笑んで眺めていた。

 概ね順調な生活を送っていた僕たちだけど、やはりあれだけのことがあった以上何もな
かったようには行かなかった。

 麻季と鈴木先輩の関係に関しては、僕はもう別れて何の連絡もないという麻季を信じて
いた。だから以前のようにそのことが夫婦間のしこりになることはなかったはずだったの
だ。麻季は真実を知った瞬間自分の行いを心底後悔したと思う。

 先輩に独身だと騙されていたとはいえ自分の親友の玲菜を裏切ってつらい思いをさせて
いたこと。それでも玲菜は麻季を恨むことなく僕と麻季の幸せを祈ったまま先輩と離婚し
たこと。そして一人で出産し奈緒を育てる道を選んだ玲菜が娘の奈緒を庇いながら急死し
たこと。

 全てを知って奈緒を引き取って育てる道を選択した麻季だけど、それだけで過去を割り
切るわけにはいかなかったようだ。順調に子育てをしているように見えた麻季だけど、し
ばらくするとやたらに麻季が僕に突っかかってくるようになった。

 麻季が一番こだわっていたのは奈緒という玲菜の遺児の名前のことだった。

 玲菜はなぜ娘に奈緒という名前を付けたのか。玲菜は僕や麻季への嫌がらせで自分の最
愛の娘にその名前を付けるような女ではない。玲菜は最後のメール以降、僕とは首都フィ
ルを黙って退職して僕との連絡を絶った。だから玲菜が事故に遭わずに存命していたら、
僕も麻季も玲菜の娘の名前を知ることはなかったろう。だからこれは嫌がらせではなかっ
た。第一玲菜が麻季への嫌がらせのためだけに生命をかけて自分が守った娘の名前を命名
するなんて考えられなかった。

 その点では僕と麻季の意見は一致していた。それでも自分のお腹を痛めた息子の名前に
ちなんだとしか思えない奈緒という名前を付けた玲菜の意図を考えると、麻季は冷静では
いられなかったようだ。玲菜がもう亡くなっているのでその意図は永遠に不明のままだ。
だからそれは考えてもしようがないことなのだ。僕はそう麻季に言った。


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