827:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/09(水) 23:23:43.64 ID:wSH5UfB0o
帰国した僕を待っていたのは昇進の内示と実家に届いていた内容証明の封筒だった。
編集部に顔を出して無理を言って四日間の有給をもらった僕は、編集長に呼ばれ社長室
で辞令を受け取った。ジャズ雑誌の小規模な編集部の編集長を任されたのだ。正直昇進は
嬉しかったけど、二人の子どもを抱えて今までどおり激務に耐えていけるのかどうか心も
となかった。唯ももう少ししたら大学を卒業して内定している商社に入社することになる。
当然二人の子どもたちの面倒を見るわけには行かないし、かといって高齢の両親だけに育
児を任せるわけにもいかないだろう。
とりあえず実家に戻って今後のことを相談しよう。そして今度こそ麻季に直接会って彼
女が何を考えているのか説明させなければならない。正直ここまでされるとメモに残した
ように麻季を許すことはできないと思っていたけど、それでも納得できる理由が聞けるか
もしれないと期待している気持もあった。僕にはどこかでまだ麻季に未練があったのかも
しれない。
「パパお帰りなさい」
実家に戻ると奈緒人と奈緒が迎えてくれた。もう二人は泣くことはなかった。
「お兄ちゃん」
唯も子どもたちの後ろから出迎えてくれた。
「ただいま」
僕は大分重くなってきた二人を一度に抱き上げた。思ったより力が必要だったけど子ど
もたちが笑って喜び出したのでその苦労は報われた。唯も微笑みながらそんな僕たちを眺
めていた。
ついこの間までは妹ではなくてこの子たちの母親がこの場所にいたのだ。ついそんなど
うしようもない感慨に僕は耽ってしまった。
居間にいた両親にあいさつすると父さんが僕に一通の封書を渡してくれた。内容証明の
封書だ。封筒に記載されている差出人は「太田弁護士事務所 弁護士 太田靖」となって
いる。気を遣ってくれたのか、唯が子どもたちを連れて出て行った。公園まで犬を連れて
散歩に行くのだと言う。奈緒人も奈緒も僕のそばにいることに執着することなく三人と一
匹は賑やかに外出していった。
僕は父さんを見た。父さんはうなずいて鋏を渡してくれた。封を切って内容を確かめる
と受任通知書という用紙が入っていた。それは太田という弁護士が麻季の僕に対する離婚
請求に関する交渉の一切を受任したという文書だった。そこに記された離婚請求事由に僕
は目を通した。
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