834:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/14(月) 22:21:54.15 ID:4uQOXUyEo
父さんは弁護士からの受任通知書をゆっくりと二回読んでから母さんに渡した。母さん
にはその内容がよく理解できなかったようだ。
「博人、おまえこの内容は事実なのか」父さんが僕の方を見てゆっくりと言った。「おま
えはここに書いてあるようなひどい真似を本当に麻季さんにしたのか」
「そんなわけないでしょ。博人はこんなひどい真似をする子じゃないわ」
母さんが狼狽して口を挟んだ。
「おまえは黙っていなさい。博人、どうなんだ。これが事実だとしたら父さんたちはおま
えの味方にはなれないぞ」
僕が混乱しながら重い口を開こうとしたとき、子どもたちと唯が帰宅して居間になだれ
込んで来た。
「パパ」
奈緒が可愛い声で僕を呼びながら抱っこをねだった。奈緒人も照れた様子で僕のそばに
ぴったりとくっ付いて来た。何があってもこの子たちだけは僕の味方をしてくれる。
太田という弁護士の内容証明によって僕は打ちひしがれていた。これまでの家庭生活の
記憶が麻季によって踏みにじられた気分だったのだ。多分このことは一生僕の心を傷つけ
るのだろう。
でも、今この瞬間に僕にまとわりつく子どもたちを抱き寄せると、それが僕の心を正気
に戻してくれた。
父さんに渡された文書を今度は妹が険しい表情で読んでいた。どういうわけか父さんも
母さんも黙ってしまい、結果として大人三人が最後の審判を待つかのように唯の表情を見
守ることになってしまった。
妹は受任通知をぽいっとテーブルに投げ捨てて吐き捨てるように言った。
「ばかばかしい。お兄ちゃんがこんなことするわけないじゃん。他人ならいざ知らずお兄
ちゃんの家族であるあたしたちががこんな文書を信じるわけないじゃん。こんな内容をあ
たしたちが信じると思っているなら麻季さんも相当頭悪いよね。まあ既婚者なのにお兄ち
ゃん以外の男の人に平気で抱かれるくらいの脳みそしかないんだから、この程度のでっち
あげしかできないんでしょうね」
唯はそれまでお姉さんと呼んでいた麻季を麻季さんと呼んだ。
「唯の言うとおりよ。お母さんは博人を信じているからね」
唯と母さんの言葉に父さんは居心地悪そうにしていた。
「疑って悪かった。母さんと唯の言うとおり博人がこんなひどいことをするわけがないよ
な」
「父さん遅いよ。自分の子どもを信じてないの?」
どういうわけか唯が半泣きで言った。
「悪かった。ちょっとこの文書に動揺してしまってな。虚偽のわりにはよくできているか
らな」
「ばかばかしい。あなたは昔から理屈ばっかりで仕事をしてきたからこういうときに迷う
んですよ。あたしも唯も一瞬だって博人を疑ったりしないのに」
「それに奈緒人と奈緒の様子を見てみなよ。こんなひどいことをする父親にこの子たちが
こんなに懐くと思うの?」
麻季が止めをさした。
「悪かったよ。謝る。だが何が起きたかは話してほしい。博人、事実を話してくれ」
それまで大人の事情を気にせずにまとわりついている子どもたちを構いながら、唯と母
さんの援護に僕は泣きそうになった。
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