838:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/14(月) 22:28:09.45 ID:4uQOXUyEo
最初に太田弁護士との直接交渉の際、僕は依頼した弁護士に頼んで同席させてもらった。
もしかしたら麻季と会えるかもしれないと思ったのだ。でも先方は弁護士一人だけだった。
やはり麻季はもう僕と顔を会わす気はまるでないようだった。
代理人の弁護士の予想どおり、僕と麻季の離婚に関してどちらに責任があるかという話
し合いは徹頭徹尾無益なものだった。お互いに証拠もなくただ主張しあうだけなのだ。こ
れが当事者本人同士の話し合いなら泥沼だったろうけど、代理人同士の話し合いだったの
でお互いに証拠を要求しそれがないとわかると、交渉はすぐにより良く子どもを養育でき
るのはどちらかという話し合いに移っていった。
麻季に有利な点はこれまで奈緒人と奈緒を順調に育てた実績があることだった。不利な
点は二つ。麻季が一週間弱子どもたちを自宅に放置したこと。受任通知書でデタラメを並
べ立てた麻季も児童相談所の通報記録に残されている事実には反論できなかったのだ。太
田弁護士は僕の虐待に耐えかねた麻季が一時的に錯乱した結果だと主張したけど、その頃
僕はオーストリアにいたのでその主張には重大な瑕疵があった。
もう一つは麻季の実家が遠方にあり麻季の育児をアシストできないということだった。
離婚する以上、養育費だけでは生活していけないだろう。麻季の養育実績は彼女が専業主
婦であることを前提にしていたから、彼女が離婚した場合の生活設計はいろいろと不明で
もあった。
一方僕にとって根本的に不利だったのはまだ幼稚園児である子どもたちを育てる環境が
備わっていないことだった。太田弁護士はよくこちらの事情を調べていた。まず僕の仕事
は時間が不規則だし帰宅も深夜に及ぶことが多い。子どもたちを幼稚園から保育園に移し
たとしても僕一人で子どもたちを育てることは不可能だ。僕は親権を争うと決めたときに
両親に育児協力をお願いして快諾を得ていたけど、その両親自身がそろそろ介護が必要な
状況になりつつあることを太田弁護士には知られていた。
今、奈緒人と奈緒を育てていけるのは主に唯のおかげだったけど、唯の就職が目前に控
えている以上、それを交渉材料にするわけにはいかなかった。もう最悪は僕が仕事を変え
るしかないかもしれない。ジャズ・ミューズという老舗ジャズ雑誌の編集長を任されたば
かりの僕だったけど、もうこうなったら奈緒人と奈緒を手離さいためには本気で転職しか
ないとまで思うになっていた。
「・・・・・・あたし、就職するのやめて奈緒人と奈緒を育てようか」
ある日、唯が思い詰めたような顔で僕に言ったことがあった。考えるまでもなくもちろ
んそんな犠牲を唯に強いるわけには行かなかった。
そういうわけで僕と麻季の離婚に関する協議はお互いに折れ合わずに膠着していた。
結局僕と麻季の協議離婚は親権で対立したまま成立せず裁判所による調停に移行した。
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