過去ログ - ビッチ
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839:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/14(月) 22:31:22.36 ID:4uQOXUyEo

 その夜、僕は某音楽雑誌の出版社主宰のパーティーに出席していた。クラッシク音楽之
友にいた頃と違って最近はこの手の商業音楽関係のイベントへの招待が増えていた。マイ
ナーな雑誌ながらも編集長を任されていた僕は、実務から開放された分この手の付き合い
が増えていた。業務が終了したら何よりも実家に戻って子どもたちの顔を見たかったけど、
これも仕事のうちだった。

 予想どおり都内の有名なホテルで開催されたそのパーティーには知り合いは皆無だった。
老舗のロック雑誌の編集者やほとんどアイドルミュージック専門のような雑誌の若い編集
者たちがそこかしこで友だちトークを展開している。ところどころで人だかりができてい
るのは著名な評論家やミュージシャン本人を取り巻いている人たちのようだ。

 クラッシク音楽専門の雑誌社が余技に出しているマイナーなジャズ雑誌の編集なんて全
くお呼びではない雰囲気だ。受付してから1時間以上経つけど僕はこれまで誰とも会話は
愚かあいさつすらしていない。これなら途中で帰っても全然大丈夫そうだ。こういう場で
誰にも相手にされないのはへこむけど、麻季にひどい言いがかりを付けられていた僕は大
抵の人間関係には耐性ができていた。

 それでもこの場の喧騒は気に障った。そろそろ黙って帰ろうかと思った僕は静かにその
場を去ろうとした。途中で金髪の若い男性(多分最近よくテレビで見るビジュアル系のバ
ンドのボーカルだと思う)を囲んでいた人たちの脇を通り過ぎようとしたとき、突然僕は
誰かに声を掛けられた。

「博人君」

 自分の名前を呼ばれた僕が振り返ると理恵が僕のほうを見て微笑んでいた。

「・・・・・・理恵ちゃん」

「わぁー、すごい偶然だね。博人君ってこういうところにも顔出してたんだね」

「久し振り」

 何か大学時代の偶然の再会を思い起こさせるような出会いだった。理恵は人込みから抜
け出して僕の横に来た。

「少し話そうよ・・・・・・・それとももう帰っちゃうの」

「少しなら時間あるけど」

 僕は理恵に手を引かれるようにして壁際に並べられた椅子に座らされた。

「はい」

 僕は理恵から白のワインのグラスを受け取った。

「博人君、白ワイン好きだったよね」

「うん・・・・・・ありがとう」

 これだけの歳月を経ても理恵が僕の好みを覚えていてくれていることに僕は少しだけ心
が和んだ。もっとも理恵の細い左手の薬指を確認はしたのでそれ以上の期待はなかったの
だけど。


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