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850:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/16(水) 23:13:08.62 ID:by+6rqHIo

 唯の悪質な冗談に翻弄されたからというわけでもないけど、次の日の就業後に僕は理恵
が指定した居酒屋で彼女を待っていた。全く色気のない店だったので唯の期待には答えら
れそうもなかったけど、理恵が騒がしい居酒屋を選んだことに僕は密かにほっとしていた。

「博人君、ごめん。待った?」

 混み合った居酒屋の店内で理恵が僕に声をかけた。

「・・・・・・いや」

「何飲んでるの?」

 理恵が僕の向かいに座りながら聞いた。

「先にビールを飲んでる」

「じゃあ、あたしも最初はビールにしよ」

 乾杯をしてから少し沈黙が流れた。理恵はきっと麻季と僕との間に何が起こったのかを
知りたくて今日僕を呼び出したのだろう。でも呼び出された僕の方はまるでお見合いに来
ているような気分だった。僕がそんな気になっていたのは全部昨日の唯の発言のせいだ。
唯は僕が麻季のことを忘れてお嫁さん候補を探すように言ったのだ。

「あのさ」「あの」

 僕と理恵は同時に言った。お互いに苦笑して再び沈黙が訪れたけど、僕は構わずに続け
た。

「ご主人、亡くなったんだってね。妹に聞いたよ」

「唯ちゃんに聞いたんだ・・・・・・説明する手間が省けちゃったな」

 理恵が笑った

「お互いにいろいろあったようだね」

「うん。そうだね」

 何となく同志的な友情を感じた僕が理恵を見ると彼女も僕の方を見ていた。

 どちらからともなく僕たちは笑い出した。大学時代の再会時を通り越して家が隣同士で
いつも一緒に遊んでいた頃に戻ってしまったような気がした。

 それから三時間くらいお互いの話をした。理恵は旦那の死後、実家に戻って実家の両親
と妹の玲子さんに育児を頼りながら仕事を続けているそうだ。

 まるで僕と同じ状況じゃないか。僕が思わずそう呟くと理恵は僕と麻季に何があったの
か知りたがった。人様に話すようなことではないけど、どういうわけか僕は理恵には全て
話してしまったようだ。家族と弁護士以外にここまで話したのは初めてだった。

 話し終えたとき理恵から同情されるんだろうと僕は考えた。そしてそんな同情はいらな
いなとも。でも理恵が口にしたのは同情ではなく疑問だった。

「麻季ちゃんらしくないね」

「え」

「麻季ちゃんらしくない」

 理恵は繰り返した。


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