873:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/25(金) 23:19:17.89 ID:7rNmoFO0o
少し酔ってはいたけれど僕は理恵の言葉を胸の中で反芻してみた。これまで僕は麻季が
突然僕に離婚を要求してきた理由がさっぱりわからなかった。太田弁護士の受任通知やそ
の後の弁護士同士の交渉を経ても、麻季の動機が理解できないという意味では何の進展も
ないのと同じだったった。
それでも何となく心に浮かんでいたのは、何らかの理由で麻季が再び心変わりして、僕
ではなく鈴木先輩を選んだのではないかということだった。というよりそれ以外には思い
浮ぶ動機はなかったのだ。
今、僕は理恵の言葉を受けて改めて自分の心を探ってみようと思った。いわゆる浮気や
不倫と言われる行為については僕は潔白だった。夫婦間のお互いへの貞操という観点から
すれば、明らかに有責なのは麻季の側だった。ただ、僕が玲菜にまるで中学や高校のとき
の初恋のような淡い想いを抱いたことがあったことも事実だった。そして玲菜のお通夜の
夜、僕はそのことや玲菜が僕のことを好きだったということも全て隠さずに麻季に伝えた。
あのとき麻季が受けたショックは、僕と玲菜のささやかな交情によるものではなく、鈴
木先輩と関係を持った麻季自身を玲菜が恨んでいなかったということに起因するものだっ
たことは間違いないと思う。そしてそのことをひとしきり悩んだ麻季は、結局玲菜の遺児
である奈緒を引き取る決心をしたのだ。
ただ、玲菜が自分の娘に奈緒という名前を命名したことに対して悩んでいた頃、麻季が
僕に向って感情を露わにしたことは確かにあった。
『博人君は本当は玲菜と結婚した方が絶対に幸せだったよね。あたしみたいに平気で旦那
を裏切って浮気するようなメンヘラのビッチとじゃなく』
『・・・・・・どういう意味だ』
『玲菜はあなたが好きだったんでしょ』
『・・・・・・多分ね』
『あなたも玲菜が気になったんだよね?』
『多分、あのときはそう思ったかもしれないね』
『ほら。あたしは先輩に抱かれて、その後もあなたに嘘をついて先輩とメールを交わして
あなたを裏切ったけど、あなたと玲菜だって浮気してるのと同じじゃない。違うのはあた
したちが一回だけセックスしちゃったってことだけでしょ』
理恵の言うとおりだった。あのときの麻季は僕と玲菜が肉体的には何一つとしてやまし
いことがなかったことを承知のうえで、僕と玲菜のお互いへの気持に嫉妬していたのだ。
ただ、それは僕への麻季への謝罪によって彼女も納得して終った話だったはずだった。
1002Res/1204.35 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。