898:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/29(火) 23:23:03.95 ID:HhhlN1+2o
常識的に考えれば幼い兄妹がどんなに仲が良かったとしても、その様子から僕と玲菜の
仲を思い出して嫉妬するなんて普通の人間なら考えられないだろう。しかも玲菜が生きて
いるのならともかく彼女は寂しい死を迎えていたのだし。
僕に言えた義理じゃないかもしれないけど、死んだ人間への執着に嫉妬することは不毛
だ。生きている浮気相手なら別れて清算することもできるかもしれない。でも亡くなった
玲菜を振って別れることはできないのだ。麻季に限らず亡くなった想い人を相手に勝てる
人なんていない。特に惹かれている気持がマックスのときにその相手が亡くなった場合、
亡くなった彼女への想いは凍り付いたままで、その記憶が残っている限りはそのまま心の
中に留まり続けるしかないのだ。
いくらパートナーの愛情を疑った人でも、普通ならそんな実体のない相手への嫉妬にこ
だわる人は少ないだろう。特に大切なはずの子どもたちを巻き込むほどその嫉妬心を面に
出す人はいないはずだ。
でも麻季ならあり得るかもしれない。愛情も憎悪も人一倍強い彼女ならば。大学時代に
ろくに口を聞いたことがなかった僕のアパートに押しかけてきた麻季。僕とは付き合って
さえいない面識すらなかった理恵にところに、僕に構うなと言いに行った麻季ならば、そ
ういう非常識なことも考えられるのかもしれない。
最初に知り合った頃、僕は彼女のことを境界性人格障害なのではないかと疑ったことが
あった。恋人同士になって満ち足りていた麻季の姿を見た僕はそんなふうに麻季を疑った
ことを後悔したのだった。でも、それは麻季がその頃の僕との関係に充足して満足してい
たからかもしれない。自分の不倫にひけ目を感じたうえに、僕と玲菜のささやかな心の交
情を聞かされて混乱した麻季が、僕の出張中に奈緒人と奈緒の仲のいい様子に僕と玲菜の
姿を重ねて考えるようになってしまったとしたら。
かつて脅迫的なほど自分の考えにこだわる姿を見せた彼女の様子が思い浮んだ。
『・・・・・・先輩、あたしのこと好きなんでしょ』
『何言ってるの』
『あたし、わかってた。最初に新歓コンパで合ったとき、先輩はあたしのことじっと見て
たでしょ』
『・・・・・・それだけが根拠なの』
『それだけじゃないですよ。美術史の講義で会ったときも先輩、じっとあたしのこと見つ
めていたでしょ』
あのときの彼女は、ろくに話しもしたことのなかった僕が自分のことを好きなのだと信
じ込んでいた。そんな彼女なら心の中で奈緒人と奈緒の様子を僕と玲菜との関係に置き換
えてしまったとしても不思議ではないのかもしれない。
でもその仮定が成り立つとしたら、麻季がまだ僕のことを好きで執着がある場合に限ら
れていた。僕より鈴木先輩や他の男を選ぶくらいなら、僕と玲菜の感情に悩むことはない
だろう。
そこまで考えつくと僕は再び混乱して、あのとき麻季が何を考えていたのかわからなく
なってしまうのだった。
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