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914:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/03(日) 00:06:39.38 ID:gNbKbyMjo

 そう割り切ってしまえば親権の争い以外に悩むことはなかった。これまで子どもを放置
した麻季に対して嫌悪感を感じていた僕だったけど、それでも僕の中には麻季への未練、
というか麻季との幸せだった過去の生活への未練が、どこかにわずかだけど残されていた
のだろう。でも理恵へのプロポーズや明日香ちゃんを含めた子どもたちの仲の良さを実感
したことで、ようやく僕はその想いから開放された。その感覚は癌の手術後の経過にも似
ていた。癌の手術後の患者はいつ再発するのかと常に悩むかもしれない。そして経過観察
期間が過ぎて、もう大丈夫だと思うようになって初めて今後の人生に向き合うことができ
るのではないか。

 僕の場合もそれに似ていた。まだ調停の結果は出ていないけど、この先の自分の人生に
向き合う気持が僕の心の中にみなぎるようになったのだ。僕はもう迷わなかった。理恵と
三人の子どもたちと、新しい家庭を構築するという単純な目標だけを僕は希求するように
なった。弁護士の言うように調停の結果奈緒の親権が確保できなかったら訴訟を起こそう。
悲観的な弁護士と違って唯は勝てる要素は十分にあると言っていたのだし。

 僕はその方針を実家の両親と唯に、そして理恵に伝えた。みんなが賛成してくれた。



 僕は仕事上もプライベートでもかつての調子を取り戻していた。理恵と実質的に婚約し
ていた僕にとって、もう将来は不安なものではなかった。麻季との離婚が成立したらすぐ
に理恵と結婚することになっている。理恵は残業のない職場に異動希望を出し、それが認
められなければ専業主婦になると言ってくれていた。そして、たとえ僕と麻季の離婚の目
途はつかなくても、来年の四月になって唯が奈緒人たちの面倒を見れなくなったら一緒に
住んで子どもたちの面倒をみると理恵は言った。

 現状にも将来にも今の僕にとって不安な要素がだいぶ減ってきていたから、僕は今まで
以上に仕事に集中することもできるようになっていた。



 その日の夜の九時頃、僕は残っている部下たちにあいさつして編集部を出た。この時間
になると帰宅しても子どもたちはもう寝てしまっている。まっすぐ帰宅しようかと思った
けれど、さっき唯からメールが来て今日は家に夕食がないので残業するならどこかで食事
をしてくるように言われていた。僕は夕食の心配をしなければいけなかった。

 一瞬、まだ仕事をしているだろう理恵に連絡して一緒に食事でもという考えが頭をよぎ
ったけれど、よく考えたら彼女は今日は泊りがけの取材で地方に赴いていることに気がつ
いた。面倒くさいしコンビニで何か買って実家に帰ろうかと思って社から地下鉄の駅に向
って歩こうとした瞬間、僕の目の前に人影が立っていることに気がついた。

「久しぶりだね」

 目の前の人影が穏かにそう言った。都心の夜の歩道はビルの中の灯りや街路灯のせいで
身を隠すなんて不可能だ。

「・・・・・・え? 何で」

 僕は口ごもった。目の前に立っていたのは、見慣れた服に身を包んだ麻季だった。


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