過去ログ - ビッチ
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950:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/11(月) 00:22:14.70 ID:ER1rVJ59o

 麻季の心配をよそに二人の交際は順調に続いた。麻季は自分のアパートを解約して博人
の部屋に引っ越した。最初のうちは博人の自分への態度が凄く淡白なことに不安を感じて
いた彼女も、一緒に暮らすようになると段々とそんな不安も解消されていった。博人なり
に麻季に愛情を感じていてくれていることも、彼の不器用な愛情表現から理解できるよう
になったのだ。鈴木先輩や他の男たちのように四六時中彼女を誉めたり愛していると言っ
たりはしないし、彼の方から手を繋いだり身体に触ったりすることもあまりないけど、そ
れでも穏かで静かな愛情というものがこの世にはあるのだということを麻季は初めて理解
した。

 これまでの男たちは自分が喋ることが好きで麻季の言うことをあまり理解しようとしな
かった。もちろんそれは自分の感情表現の下手さから来るものでもあった。ところが博人
はほとんど口を挟まずに不器用な彼女の言葉を聞き、自分の中で繋ぎ合わせ、最後には彼
女の考えていることを理解してくれたのだ。

 もう博人君から一生離れられないと麻季は思った。

 だから博人が音楽の出版社に内定が決まった日の夜、彼からプロポーズされた麻季は本
当に嬉しかった。

「喜んで。この先もずっと一緒にあなたといられるのね」

 このときの麻季の涙はこれまでと違って中々止まらなかった。

 結婚後、麻季は大学時代のピアノ科の恩師の佐々木先生の個人教室のレッスンを手伝っ
ていた。音大時代のほとんどの時間を博人にかまけて過ごしてしまった彼女だけど、佐々
木教授だけはどういうわけか彼女に目をかけてくれていた。演奏家としてやっていくほど
の実力もないし、中学や高校の音楽教師を志望するほどのコミュ力もない麻季に、先生は
自分の個人レッスンを手伝わないかと言ってくれた。卒業したときは既に博人との結婚が
決まっていた彼女は何となくそれもいいかと考えたのだ。音大志望の中高生を教えるくら
いなら何とかできそうだ。既に音楽系の出版社で働き出していた博人もそれを勧めてくれ
た。

 始めてみると意外と自分にあっている仕事だった。拘束時間はきつくないし、実生活で
の麻季とは異なりレッスンのときは中高生たちに自分の伝えたいことがよく伝わった。半
分はピアノに語らせているせいもあったのだろう。今思えば無茶をしていたと思う。博人
と一緒に暮らしている部屋にはもちろんピアノなんかない。佐々木先生の教室での空き時
間に教えるところを一夜漬けみたいにおさらいするのが精一杯。それでも仕事自体は楽し
かった。それで彼女は博人と結婚した後もその仕事を続けていた。博人といつでも一緒に
いられた大学時代とは異なり彼の会社までついて行くわけにもいかない。博人不在の時間
を潰すのには彼女にとって格好の仕事場だった。


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