過去ログ - ほむら「アリゾナは」杏子「今日も暑い」
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20: ◆2GQkBO2xQE[saga]
2012/09/26(水) 21:43:03.92 ID:tiLKgAlSo


 アンの残していったトングとサラダボールを抱えて店を出た二人は、すぐに倉庫を見つけることが出来た。

 どこもかしこも埃っぽい、塗装の剥げた家ばかりの横町の中。三メートルばかりの短い階段を下りた場所。
電線の切れたランプが揺れる土間の倉庫が、兎脚亭の宝物庫らしい。

「開け開けー、開けゴマー、っと……」

杏子は鼻歌を歌いながら赤い革ジャンのポケットをまさぐり、十よりは少ない量の鍵束から一つ一つを取り出しては、荒っぽい手付きで鍵穴に差し込んでいく。

「……これ全部違う鍵じゃね? ……これなんて『弾薬庫』って書いてあるぞ」

「……隠語という可能性もなくもないけど……」

 全ての鍵を差し込み終わったところで、杏子が首を傾げてほむらを見た。
 鍵穴はどれもサイズが微妙に合わず、中には自転車の鍵とおぼしき物まで含まれている。
鍵束にガムテープで無造作に張りつけられた紙っぱしには『Ammunition Box』の文字。
ほむらも杏子の手から鍵を取り、自分目で確認したが、やはり合致する鍵は見当たらなかった。

「……仕方ないわね。アンのところに戻りましょう」

 ほむらが鍵束を手にして扉に背を向けたところで、背後からぼきりと鈍い音。
最高に嫌な予感がしたほむらは、油の切れた人形のような動作で首を動かした。

「ほら。空いたぜ。これでばあちゃんの一安心だろ?」

 そこには内側に開いていくドアとほむらを交互に見ながら、八重歯を見せてにっかり笑う杏子の姿。
その手には木片の纏わり付いたドアノブがあり――それが何を意味しているのかなど、ほむらは理解したくもなかった。

「……杏子、あなたね……」

 ほむらが小さく首を左右に振りながら杏子に近づいていくと、杏子はけろりと言い放った。

「卵焦げたらばあちゃんだって大変だろ?」

「……魔法で直しなさい。あとで。あなたが。責任を持って」

「わーかってるってー。ほむらはシンケーシツだよなー」

「……あなたと比べたら、誰だってそうでしょうね……」

 疲れ切った声で言いながらも、ほむらはそれ以上は追求しなかった。言っても無駄だと思うからだ。
 眼鏡を掛けていた頃ならいざ知れず、今のほむらは繊細な人間では断じてない。
道を阻む物があれば爆破するし、それが敵なら容赦なく射殺して、死体を焼夷弾で焼き尽くす。
だが、回り道をすれば壊さなくて済む物まで壊してしまうほど、横着――悪く言えば、常識知らずな人間でもない。

 その点、杏子はほむらとは少し違った。
杏子のスタンスは『直せる物なら直せばいい』だ。
壊せば何かがなんとかなるなら、さっさと壊して先へと進み、それが直せる物ならば、後から直すか――そのまま忘れる。
基本的にアバウトなのだ。それも非常に。物凄く。格別に。呉キリカといいとこ勝負だ。とんでもない。

「さーて、さっさと見つけて飯にありつこうぜぇ〜」

 そういうことなので、効率主義者のほむらも以前はこういった行為の度に激怒していたものの(それは地球上に魔女がいたような太古の昔だ)、今ではすっかり諦めてしまった。
後処理をしようとするだけマシだと考えるようになってしまったが、それで頭痛が止むわけでもない。

「慣れって……いい物ばかりではないわね……」

 ほむらはこめかみを手で揉みながら壁のスイッチに触れて灯りを付け、呑気に鼻歌を口ずさむ杏子に付いていった。


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