過去ログ - ほむら「アリゾナは」杏子「今日も暑い」
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5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]
2012/09/25(火) 06:30:50.93 ID:8Vh59mPCo
「おかわりは勝手に取っときなさい。わたしは今から、アリゾナ最高のランチを用意するからね!」

「はい。お待ちしています」

「……うーっす」

 あてが外れてむくれる杏子と、丁寧に会釈をするほむら。
対照的な二人にしわくちゃの笑顔を返しながら、ジョアンナは軽く腰を上げ、颯爽とカーテンの奥へと消えていった。恐らく、中は厨房だろう。

「たった一ドルのコカ・コーラでも、奢りで飲めるなら最高ね」

 ほむらは唇の端を僅かに上げて微笑みながら杏子の顔を覗き込むと、ほむらは優美な動作で栓抜きを取り、きゅっと音を立てて蓋を開けた。
桜色の唇がぱくりとコーラの瓶を咥え込み、ごくり、ごくりと喉を鳴らして、ほむらは目元と口元で再び微笑む。
 いやらしい光景だと杏子は思った。そして、なにより美しい。
杏子の知っているほむらはそうだ。見た目で得られる印象よりも、ずっとずっとよく笑い、声は優しく、手は小さい。
ひどく冷たい体をしてても、その唇の温度ときたら、まるで彼女の名前のようだ。

「……ま、そりゃそうだけどさ」

 杏子はほむらの手から栓抜きを受け取った。瓶で冷えた指先は、油で少し黒ずんでいた。
ほむらの瞳から目を離さず、杏子は瓶の蓋を開け、黒色の刺激体を喉に流し込むなり、満面の笑みを浮かべて快哉を上げた。

「――かぁぁぁあーっ、ウマイッ!!サイッコォォォォ――!!」

 はっ、と満足げに息を吐き出す杏子に、ほむらもにっこりと目尻を下げて歓喜を返す。
どこまでも単純な女だった。そして、そこが嫌いでなかった。

「アリゾナの太陽にカンパーイ!」

「あなたと私の友情に」

 例えようもない昂揚感が、自然と二人を突き動かした。
二人はかちんと瓶を掲げてぶつけ合い、一息にコーラを飲み干すと、ジュークボックスが叫びを上げた。

”ねえ、レイラ。あなたは私を跪かせた。
 そうでしょ、レイラ。お願いだから。
 ねえ、レイラ。私の悩める心を解き放って”

 噎び泣くようなエレキの旋律。クラプトンの嗄れ声。魂を揺らすドラムのビートと、臓腑に浸みるベースの重み。
何にも屈せず、前だけ向いて、道無き荒野の果てを行く二人には、くたびれた男の歌がよく似合う。

 ――レイラ、レイラ。愛しのレイラ。寂しく悲しいあなたの心を、私の愛で癒してあげたい。

 それは砂漠に漂う、湿ったエレジー。人の女に恋してしまった、愚かな男が奏でる哀歌。
強がりを言うプライドは傷ついたけど、狂う前には救われた。

 ――レイラ。我が愛。我が情熱。ほんの小さな私の慰め。だから、ずっと一緒にいさせて。

 二人は軽く指先を繋ぎ、そっと掌を重ね合わせた。
 ああ、貴女は彼女に似ていないけど、此処は彼処によく似てる。これはあれによく似てる。

 そこは故郷・見滝原を遠く離れた異国の地、北米大陸で最後に定められた、アメリカ合衆国の四十八州。
七千万年前の地球の面影を残す渓谷、グランドキャニオンを大地に抱く、アリゾナの僻地・コネクション。
九千キロの直線距離と太平洋を越えた彼方にあって、ブルースの音色はじわりと苦く――コーラの刺激は蜜の味だ。


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