過去ログ - ほむら「アリゾナは」杏子「今日も暑い」
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(埼玉県)
[sage]
2012/10/06(土) 10:31:06.47 ID:8zkiALdPo
「助けて! 助けて! 神さま、助けて!! たのむ! 誰かぁ!!!!」
狂乱して泣き叫ぶその人型は、壮年男性の声で悲鳴を上げていた。
彼は全身に重油のような色と比重を持った液体を張り付かせながら、この世の物とは思えない声を上げて悶え苦しむ。
その凄絶極まりない光景。悪夢としか言いようがない有様を、二人は険しい目つきで観察していた。
「モルヒネ打つよ! 後で二本目を打ってもいい! レンジャーに連絡してヘリも呼ぶんだ! 女子供は下がらせな!」
「エド! しっかりしろ! 俺はここにいるぞ! 息をするんだ! 俺の目を見ろ!」
「腕を押さえろ! 足も! 泥には絶対触れるなよ!」
二人が見ている前で、マスクやハンカチで口元を隠したバイカー達が、泥男の四肢を押さえつけた。
切迫した表情のアンが男の首筋に注射器を突き刺すと、男はにびくびくと痙攣しながら動きを止めて、
やがて呻くような声だけを残し、ぐったりと床に横たわった。
「……ロバート。裏にバンが回してあるそうだよ。ヘリが来るまでそこにエドを置いといてくれ」
「……わかった、ドク。……あとは任せたよ」
ぞっとするような叫び声が鳴り止み、ぞっとするほどの静寂が床屋の中に立ちこめる中、
一人のバイカーとアンが言葉を交わすと、傍らで黙り込んでいた二人のバイカーは泥の塊を担架に乗せ、
べちゃべちゃと泥を踏みしめながら、重い足取りで裏口へと向かっていった。
「……神なんぞはクソッタレだ! こんちくしょう――!!」
ロバートと呼ばれた大男は、手にしていたゴム手袋を地面に投げつけると、びちゃりと泥が飛び散った。
その野太い肘までを覆う医療用のゴム手袋は二重であり、沈痛な面持ちで伏せるアンの傍らに置かれた救急箱には、
似たようなゴム手袋とマスクが何十枚もセットになって入っていた。
「……エド……来週には誕生日だったのに……」
ジョディは唇を噛みしめ、未だ頭髪が散らばったままの席を掻きむしるように掴んで俯く。
誰もが自らの無力さに打ち拉がれ、痛々しいまでに沈黙する店内とは裏腹に、
店の外に広がる怯えを含んだどよめきを、ほむらの鋭敏な聴覚が捉えた。
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