202:プルーストを読みたいが時間がない[saga sage]
2013/10/27(日) 00:20:49.09 ID:7rRw1X5B0
  
 「あっ……」 
  
 その時、フィリアは上ずった声を出した。 
  
 赤毛の少女が不意に短剣でフィリアの腹部を貫いたのだ。 
  
 私は彼女の名前を叫ぼうとしたが殆んど悲鳴じみたものになってしまった。 
  
 恐怖に似た感情に駆り立てられ彼女に走り寄ろうとし、しかしすぐさま立ち止まった。 
  
 フィリアは腹部を貫かれ、それでもなお少女を抱きしめていた。 
  
 幼さ故の敏感が生んだ混乱に惑う子どもを慰撫する母親の抱擁であった。 
  
 どのような敵意も受け容れ、如何なる憎しみをも抱きとめる母性そのものであった。 
  
 私は己の全身がわななくのを抑えられない。 
  
 長年の生き方を全て否定されてしまったかの如き動揺。 
  
 そして、全身を貫いた畏敬の念。 
  
 私は『私』を見失いかける。 
  
 「……怖がらないで。大丈夫」 
  
 フィリアの声音は心を凪ぐ静かな歌声であった。 
  
 心の欠落を慰撫し、心地よく埋めていく人智を超えた調べであった。 
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